香港の不動産王と呼ばれる人物が、世界経済の先行きに警鐘を鳴らしている。ヘンダーソン・ランド・デブロップメントはアジア最大の不動産会社の一つ。同社のリー・シャウー会長は239億ドル(2兆8.700億)の資産を持ち、フォーブスの世界長者番付で30位に入っている。香港本社で9月1日、インタビューに応じた同社副会長のコリン・ラム氏はこのところの景況について、「米国以外のビジネスサイクルは明らかに弱まっており、世界経済の減速を示している」と語った。
世界的な株安の震源地が中国だ。8月の製造業の数値がこの3年間で最悪となり、中国と香港の株式市場は、再度の下落に見舞われた。中国では9月3日に北京で軍事パレードが開催される。そのイベントは中国の新たな存在感を世界に誇示し、習近平国家主席の権力基盤を確固たるものにするとの位置付けのため、「それまでは中国政府が株価の下支えを続ける」と伝えられていたが、それでも2日の香港市場は下落した。軍事パレードに関連して中国共産党は労働者に1日の特別休暇を与えたが、これも企業経営にとってはマイナスだ。
「我々は欧州での問題に加えて、中国の減速にも対応しなくてはならない」とラム副会長は語る。「政策金利の引き下げなど政府は多くの手を打っているが、効果が出るまでには時間がかかる。もし、いったん、消費や投資が手控えられることになれば、直ぐにその方向性を変えるのは難しい」としながらも、「政府はさらなる対策を繰り出すだろう」と期待を示す。
その一方で、ラム副会長は「政府の刺激策がこれまで市場の信認を得ていないのは嘆かわしい。Aシェア株式(中国人向け株)の混乱はまだ続いている」とも述べている。
直近の数値で、人民元は対米ドルで2~3%下落したが、これはまだ終わりではない。ラム副会長は個人的な見解とした上で、「人民元はさらに安くなるべきだ。珠江デルタで工場を運営する友人は、為替変動で一部の製造を停止した。円のような通貨に対して競争力をつけるには人民元はまだ安くならなくてはならない。円やユーロと同じ土俵に上がるには、一ケタの値下がりでは不十分だ」との見解を示した。
米国経済も圧力にさらされている。「米国経済はこれまで順調だったが、米ドルがここまで高くなるとビジネスにも影響が出て、米国のパートナーである中国や日本も変調をきたす。そして結果的に、米国もデフレを輸入することになってしまう。米国が一国で世界経済を支えられるとは私には思えない」。
ラム副会長は、香港の本拠地でも不動産ビジネスが難しくなってきたとみている。「実体経済が減速しても、高い不動産価格が維持できた時期は終わった。香港の不動産市場が再び活況に沸くことはないだろう。業者は開発案件を妥当な価格どころか値引きして売りに出し始めているのだから」。
世界経済への懸念は米国株式や国際的な商品市場にとっても重荷となっている。米国市場で取引されている代表的な中国企業、アリババ株は0.6%値下がりした。