アップルは年間2億2000万台以上のiPhoneを販売している。その約9割が中国で製造されていると推計されており、アップル製品に使われる多くの部品も中国で製造・調達・組み立てられている。同社は4〜6月期に堅調な業績を報告したが、先行きは不透明だ。アップルの中国依存と米中間の緊張が高まっているためであり、関税はこうした地政学的な対立の一端を示している。
最高経営責任者のティム・クックはアナリスト向け業績報告会で、前四半期に関税が8億ドル(約1179億円)の追加コストを生み、次四半期にはさらに11億ドル(約1621億円)押し上げる可能性があると述べた。
しかし、関税によるコスト増だけが問題ではない。アップルが育成してきた中国企業は、いまや同社と競合し得る製品を生み出している。パトリック・マギー著『Apple in China』によれば、アップルは2016年に「今後5年間で2750億ドル(約40兆5200億円)超を中国に投資する」と約束し、その額を実際に上回った。
アップルが中国で構築した高度なサプライチェーンは、ファーウェイをはじめとする中国企業に活用されている。ファーウェイのMate XTはiPhoneより高価ながら魅力的な機能を備える端末だ。アップルがこれらの機能に追いつくのは2027年まで難しいと見込まれている。かつてデザインで市場をリードし、高い利益率を享受していたアップルは、深刻な競争に直面している。
アップルはなぜここまで大きな賭けをしたのだろうか。リスク管理の基本は「卵を1つのかごに盛るな」である。著者であるマギーは、200人を超える主にアップル社員への取材を通じ、この「秘密主義で有名な企業」がたどった経緯を明らかにしている。
アップルのサプライチェーンの歴史
歴史的にアップルは、自社工場を複数地域に分散させていた。1983年にはカリフォルニア州フリーモントに高度自動化工場を開設し、初代Macintoshを生産。1980年にはアイルランドのコークにも工場を構え、後に欧州市場向けにカスタマイズされたMacintoshを製造した。これは投資を分散してリスクを抑える典型的な手法であり、当時のアップルはその原則を理解していた。
だがやがて、自社工場を持たず外部に製造を委託する契約製造モデルが台頭すると、アップルもこれを試行し、成功を収めた。企業はコア・コンピタンスに集中すべきだという理論のもと、アップルはデザインに注力。当初は米国企業と協力し、米国内の工場を用いていたが、台湾企業のFoxconn(フォックスコン)が米国勢を上回る能力を示し、最終組立のシェアを拡大した。
それでも、世界の異なる地域に工場を持つ契約製造業者を使用して、効果的なリスク管理を実践することは可能だ。フォックスコンはアップルの要請で、中国に加えて世界の他の地域での製造を実験した。



