技術が進化しても揺るぐことのない価値
デジタル技術が飛躍的に進化し、バーチャルな体験が身近になった。実際、「アオと夜の虹のパレード」のシナリオも、ほとんどがデジタルツールを使って計画されたものだ。

田中によると、企画が生まれてからウォータープラザが完成するまでの3年間、頭の中で構想したことを、コンピューター上でシミュレーションするという繰り返しだった。いよいよ開催まで残り1カ月という段階で初めて実際の水上でテストを行い、そこから一気呵成にショーを完成へと導いたのである。
「3年分の構想が、水上で現実のものとして立ち上がった時の感動は、言葉では言い尽くせないものがありました。生成AIをはじめ、デジタルテクノロジーは確かに僕たちの創作過程をより早く、深いものにしてくれます。でも、やっぱりその中心に人間の心を動かすものがないと、人の心を動かすことはできないと思います」(田中)
これから閉幕までの毎夜、水しぶき、炎の熱気、空間全体を包み込む奥行きのある音と光の洪水など、五感をダイレクトに揺さぶる体験に、観客たちは圧倒され、多くの人がリアルの力を再認識するだろう。
一度きりの『生』の体験を創り出すことにかけては、香取は田中以上の経験者だ。
「リアルってやっぱりいいですよね。見てくれる人たちの顔が笑顔になる、それが見えてくる。ライブ演出ではお客さんの笑顔を考えながら作るけど、こうやってここで、この特効入れて、とか。この音の時にこういう演出をする、ここでお客さんの顔が変わるといいなとか。アートを描くときは、見た人が何思うかを考えながらもそこに正解はなくて、逆に僕はこう思っているのに、お客さんは違うこと思うんだろうなーとか想像しながら展示しちゃったりするのが楽しい。違いはあるけれど、実際に見たり触れたりするということの素晴らしさはなくならないだろうし、デジタルツールなどが増えているからこそ、もっとそっちが重要なものにもなるかもしれないな」(香取)

万博という「場」の意義とアートの社会的効能
過去には東京2020パラリンピック開会式で、選手入場の演出などを手がけた田中は、パブリックイベントを「みんなが集まって議論する場」にしたいという願いも持つ。
特に万博は、時に言葉を超えた共感を生み、異なる価値観を持つ人々を繋ぐアートの力を最大限に発揮できる舞台だ。企業や国が最先端の技術や自国のカルチャーや産業を一方的に披露するだけではもったいない。未来への希望を提示するものにするには、どうすればいいのか?と田中に問うた。
「来場者一人ひとりが何かを感じ、考え、何かしら意識の変化が起きるきっかけとなることが大事だと思います。そういう意味ではこの万博はもしかすると最後の場なのかもしれないと思う時もあります。水上ショーのようなイベントは、人々を呼び寄せる“ヤグラ”のような存在になればと思っています」(田中)
ふたりの対話を通して見えてきたのは、「リアルな体験」を通じてワクワクとした感動を共有させ、社会全体の「意識や行動の変化」を促すというアートの効能である。そして、様々なパブリックプロジェクトに織り込まれたストーリーを私たち一人ひとりが受け取り、未来について考え、語り合うための触媒として生かしていくことが、より良い未来社会をデザインするための重要な鍵となるに違いない。


