日本企業が学ぶべき「グローバル市場での価値創造法則」
MIKI HOUSEの事例から導かれる最も重要な考察は、「商品の本質的価値」と「提供される文脈」の相乗効果だ。いくら優れた商品であっても、適切な文脈なしには、その真価は伝わらない。逆に、戦略的に設計された文脈は、商品の価値を飛躍的に高める。
日本企業の海外展開では、「商品力があれば売れる」という誤った思い込みが根強く存在する。特に、「日本のものづくり」という言葉が、その根拠として頻繁に使われるが、多くの場合、それは中身の伴わないスローガンにとどまっている。具体的な技術的優位性や価値を説明できないまま、「日本製」という言葉に頼る企業が後を絶たない。
これは言い換えれば、「説明できないからこそ、出回っている言葉を借りて使っている」という構図であり、ある意味でその言葉の流通に巻き込まれた企業自体が、流行に乗ってしまった“被害者(ビクティム)”とも言えるだろう。 しかし、グローバル市場では「何を売るか」以上に「自分たちが誰で」「何を持っていて(やっていて)」「どこで、どのように、誰に売るか」が成功の鍵を握る。MIKI HOUSEのニューヨークにおける方針は、この原則を体現した格好の事例といえるだろう。
特に重要なのは、以下の3つの能力である:
データに基づいた判断力
感情的判断ではなく、「勝敗ライン」という明確な数値基準を設け、ECデータ分析に基づいて方針を策定する客観性。竹田社長が語る「自社ECの売上データ分析に基づいた取り組みを設計した上で、まずはPOPUPで具体的なポテンシャルを探ってから本格展開する」というアプローチが、この能力を具現化している。
文脈設計力
単なる商品販売ではなく、プラザホテルという「語られる場所」で「特別な体験」を提供し、商品の意味を再定義する能力。「クオリティが極めて高い商品そのものが一番の『マーケティングツール』」という認識のもと、店舗体験から始まる顧客との関係構築を重視する姿勢が、この能力を示している。
価値翻訳力
日本の価値観を「押しつけ」るのではなく、現地のニーズを汲み取った上で日本らしさを「Blend」させる柔軟性。「お客様のお声を真摯に汲み取った上で、日本らしさを織り込んでいく」という竹田社長の言葉が、この能力の本質を表している。
さらに、MIKI HOUSEの成功は「日本らしさ」を海外で展開する際の新たなアプローチをも示唆している。従来の日本企業は、日本文化の説明に多くのエネルギーを費やしてきたが、MIKI HOUSEは現地の価値観や文脈の中に日本的な価値を溶け込ませることで、より効果的なブランド浸透を実現している。
この戦略的思考は、今後日本企業がグローバル市場で競争力を維持・向上させるための重要なヒントとなる。商品開発力や技術力に加えて、数値に基づいた客観的な「データに基づいた判断力」や「文脈設計力」「価値翻訳力」が、これからの時代の企業競争力を左右する要因になることは間違いない。
MIKI HOUSEのニューヨーク戦略は、その意味で日本企業にとっての新たなグローバル展開のテンプレートとして、参照されるべき事例となるだろう。単に「売る」ことではなく、語られるに値するブランドであること、その価値を見極めることが、これからのグローバル戦略の核心となるのではないだろうか。


