もっとも、話はそう単純ではない。いわゆる「債券自警団」は、関税による痛みに苦しむ経済を下支えするための中国政府の努力は、長期の政府債務の大幅な増加につながるとみて懸念している。債券トレーダーの間では、中国の財政赤字はこの努力によって2025年後半に拡大するのではないかとの観測が飛び交っている。
中国の広義の財政赤字は2025年1〜6月に前年同期比45%拡大し、5兆2500億元(約107兆5000億円)に達した。ここで注目すべきなのは財政赤字の額自体よりも、むしろその「傾向」だ。1990年代の日本の悪夢のような経験を研究した経済専門家たちは、中国に関しても似たような点の軌跡をたどることができるだろう。中国はいま、日本が数十年続けていたようにデフレとも戦っている。
国内総生産(GDP)が18兆ドル(約2670兆円)に達する国にとって、台湾のGDPよりやや小さい程度の財政赤字は管理可能だ。しかし、中国ウォッチャーは、たんに点をたどるだけでなく、それをつなげてみることもできる。
関連して目を向けるべきは、中国の地方政府が抱える債務だ。その総額は数兆ドルに達し、多くは地方政府傘下の投資会社「地方融資平台」を通じた簿外のものが占める。中国はとても透明性の高い国とは言えないので、実際の債務状況は公式発表よりも悪いのではないかと考えるのはもっともだ。
この問題に大きく関与しているのが、中国政府によるGDP成長率目標の設定だ。この毎年の“恒例行事”にかき立てられ、国内34の省級行政区の地方指導者たちは平均以上の経済成長を生み出そうと躍起になる。実際、中国共産党内の評価システムでは、地方でそうやって成果を出した政治家が中央で出世の階段を駆け上がってきた。
だがその結果、中国各地に、過剰な数の6車線の幹線道路や、空き室率の高い超高層ビル、路線誘致に苦慮する国際空港、無用の長物と化したスタジアム、そして例の、完成できないまま放置された巨大なマンション群が出現することになった。


