英ロンドン大学キングスカレッジでロシアの軍事と情報活動について研究するエレナ・グロスフェルド博士候補は、帝政ロシアの復活を目指すプーチン大統領の次の標的になる可能性が高いのはバルト三国だとみている。エストニア、ラトビア、リトアニアという脆弱(ぜいじゃく)な小国から成るバルト三国は、第二次世界大戦の勃発からわずか数日間でソ連に占領された歴史がある。
筆者の取材に応じたグロスフェルド博士候補は次のように語った。「バルト三国は、プーチン大統領の側近らによって標的として扱われている。現実的に考えると、国土の小ささゆえに、あっという間に占領される可能性がある。もしロシアが、米国は単に声明を出したり、思いや祈りをささげたりする以上の干渉はしてこないだろうと考えているのであれば、それはあり得ることだ」。リトアニアのようなNATO加盟国が一夜にして侵攻された場合、米国がどの程度強力な防衛力を展開するかは現時点では不透明だという。
NATO条約第5条には、「欧州または北米におけるいずれかの締約国または複数の締約国に対する武力攻撃は、すべての締約国に対する攻撃と見なす」ことが定められている。だが、グロスフェルド博士候補は、NATO加盟国は皆、集団防衛に同意しているが、各加盟国は集団防衛への貢献を独自に決定することができると指摘。軍事力を含めることもできるが、必ずしもそうする必要はないと説明した。
NATOの集団防衛を義務付ける第5条を巡って矛盾した発言を繰り返している米国は、加盟国に対するロシアの攻撃への道を開くことになるかもしれない。ロシアは米国が介入してくるのか、あるいは孤立主義を深めるのかを虎視眈々(たんたん)と伺っているからだ。
米国が介入しないのであれば、ロシアとの停戦協定調印後にウクライナに平和維持部隊を派遣することをすでに提案しているフランスと英国が、欧州におけるNATOの新たな事実上の指揮者として台頭する可能性が高い。そうなれば、米国は国際舞台での自らの地位の低下を目の当たりにするだろう。
一方、NATOの守護者としての地位を向上させたフランスは、自国の核の傘を欧州全域の他の加盟国すべてに広げることができるだろう。グロスフェルド博士候補は、フランスのエマニュエル・マクロン大統領が自国の核抑止力を他の欧州諸国に拡大することについて協議する意欲をすでに示していると指摘する。
米科学者連盟の学者らによると、フランスは現在、約290発の核弾頭を保有している。さらに解体待ちの退役核弾頭が約80発あることから、同国が保有する核弾頭の総数は約370発になる。
だが、これらの専門家は、フランスの核に関する原則は防衛目的のみに厳格に定められており、核兵器の使用は「自国の重大な利益に関わる正当な自衛が必要な極端な状況でのみ考えられる」とする仏国防省司令官の発言を取り上げた。他方で、米国が欧州の舞台から手を引く兆候が見られる中、フランスの核の盾は進化し、少なくとも一部の同盟国を防衛するために拡大しつつあると専門家らは報告している。マクロン大統領が4月に核兵器搭載可能な最新鋭のラファール戦闘機をスウェーデンとの合同訓練に派遣した際、駐スウェーデン仏大使が「フランスの『核の傘』は同盟国にも適用され、もちろんスウェーデンもその中に含まれる」と語ったという。


