だが、ロシアの軍事戦略に詳しい学者らによれば、同国と西側諸国の次の衝突がどのように始まるのか、あるいはどのように発展して欧州を巻き込んでいくのかを正確に予測することは事実上不可能だという。一部の軍事専門家はプーチン大統領と同様に、ロシアが現在ウクライナに向けて行っているミサイル攻撃が世界的な紛争に発展する可能性があるとみている。
しかし、米カリフォルニア大学でロシアの軍事戦略を専門とするスペンサー・ウォーレン博士は筆者の問いに対し、次のように解説した。「この戦争、あるいはいかなる戦争も、第三次世界大戦に発展するかどうかを予測することは不可能だと考えている。ほとんどの紛争には、一見小さなものであっても発展する道筋がある。例えば、第一次世界大戦は当時としてはごくありふれた過激派による政治事件から始まり、欧州全体に広がった後、アフリカや中東、太平洋地域の大部分を巻き込んでいった」
ウォーレン博士は、さまざまな要素がウクライナ侵攻を引き起こしたが、同国の国境を越えて戦火が広がっていく恐れを示唆した。「ロシアが攻撃を拡大し、ウクライナに武器を供給しているポーランドなどの西側諸国の武器庫を標的にした場合、あるいはロシアの空爆によって(意図的か否かは別として)欧米の首脳が死亡した場合、あるいはロシアの操縦士が誤ってNATO軍機に発砲したり、ナビゲーションシステムの不具合でNATO領内を誤爆したりした場合、現在のウクライナ侵攻は瞬く間に米国や他のNATO加盟国を巻き込んだ地域紛争に発展する可能性がある」。このような紛争が世界規模の戦争に発展する可能性はあるのかとの問いに対して、同博士は「ある」と明言し、「それは常に大きな危険性をはらんでいる」と答えた。
ウォーレン博士は、ロシアが5年以内にNATO加盟国を攻撃する可能性があるというルッテ事務総長の警告を支持している。「もちろん、その期間にロシアが効率的に軍を再建できるという保証はない。しかし、現時点で同国は信じられないほど大量の資材を生産している。こうして時間を稼ぐことで、軍の再建や能力の拡大を実現できる可能性はある。脅威は極めて深刻であり、欧州諸国は軍需産業を改善し、製造を拡大するとともに国防費を増やす必要があるというNATO事務総長の意見に私も賛同する」
今から1世紀近く前、フランスと英国がナチスドイツ軍の快進撃に追い抜かれたように、欧州がロシアの急速な台頭に追いつけない場合、同国が欧州連合(EU)加盟国に侵攻する可能性が高まるだろう。
熱狂的な国粋主義者に囲まれたプーチン大統領は、かつてロシア帝国やその後のソ連の領土だった土地を奪還するために侵略軍を派遣する計画を立てている。最も可能性の高いシナリオは「旧ロシア領」への電撃攻撃から始まるだろうとウォーレン博士はみている。「ロシアの国粋主義者らは、帝政ロシア時代に支配していた土地を奪還することについて盛んに主張している。ロシアはNATO加盟国(恐らくバルト三国)を電撃的に攻撃し、米国を含むNATO諸国が大規模な反撃に出る前に紛争を終結させようとするかもしれない。最大の要因の1つは、この地域に対する米国の関与をロシアがどう認識しているかだろうと思う。米国が同盟国の防衛に動き、バルト三国やポーランド、ルーマニアといった東欧諸国にロシア軍を撃退するのに十分な兵力を投入する可能性があるとロシアが考えれば、攻撃を思いとどまる確率は高まる。逆に、もしロシアが米国は介入しないだろうと信じたり、バルト三国で既成事実を作ることができるだろうと考えたりすれば、攻撃のリスクは高まるだろう」


