在韓米軍の役割に「中国に対する牽制」が加われば、戦時作戦統制権の韓国軍への移管は加速するだろう。上述の韓国軍元将校は「指揮権の移管は慎重を期すべきだ」と語ると同時に、「移管が在韓米軍の撤収や米軍によるISR(情報収集・警戒監視・偵察)能力の提供中止につながるという憂慮は、極端な考えだ」とも指摘する。ただ、在韓米軍が中国軍を意識すればするほど、韓国軍は朝鮮半島有事で主導権を握らざるを得なくなり、今の米韓同盟のシステムに不都合が生まれるだろう。
こうなると、国防予算の増加は避けられないが、韓国の2025年度国防予算は61.6兆ウォン(約6兆2千億円)で、すでに国内総生産(GDP)比2.3%を占めている。韓国は29年初めまでに国防予算を84兆ウォンに増やす方針だが、トランプ政権が要求するGDP比5%を達成する場合、国防予算は132兆ウォンになり、経済や社会的な負担が大きくなりすぎる。元将校は「日豪比などの友好国と協力して国防先端技術開発や国防産業の育成に努める必要がある」と語るが、道のりは簡単ではないだろう。
結局、韓国は朝鮮戦争でそうだったように、隣国の日本との安全保障協力を進めざるをえなくなるだろう。元将校も現在の日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)に加え、弾薬や装備を融通し合える物品役務相互支援協定(ACSA)、自衛隊と韓国軍の往来を円滑にし、有事の際の避難などにつなげる相互往来協定(RAA)の締結が必要だと語る。もちろん、戦後80年を迎えても、「日本軍国主義」への反発が色濃く残る韓国世論は無視できない。元将校は「まず国民世論の理解が必要だ。そのためには、韓国軍と自衛隊の相互交流を段階的に増やし、韓日の安全保障協力がどれだけ意味があるのかを理解してもらう必要がある」と語る。
全くその通りだが、果たしてそれまで中国や北朝鮮が待っていてくれるかどうか。日韓両首脳は23日の共同発表文で「戦略認識の共有の強化」をうたったが、具体的な協力には踏み込まなかった。進歩(革新)系の李在明政権が具体的に日米防衛協力に踏み込めば、政権の求心力を保てなくなるだろう。それどころか、米韓両国が25日に米朝首脳会談の推進で一致したことで、トランプ氏が北朝鮮の核保有を黙認する危険も高まっている。日韓安全保障協力の道のりは依然、遠く険しそうだ。


