国内外から一躍脚光を浴びるようになった藤本は、以後、「武蔵野美術大学 美術館・図書館」(2010)、「サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン2013」(2013)、フランス・モンペリエの集合住宅「ラルブル・ブラン(白い樹)」(2019)、「ハンガリー音楽の家」(2021)など、スケールも文脈も異なる建築を次々と手がけていった。
現在は東京・パリ・深センに事務所を構え、2025年の大阪・関西万博では会場デザインプロデューサーとして、シンボルとなる「大屋根リング」の設計を担っている。
彼の思考は常に、「未来を考えるには原初に立ち戻る必要がある」という命題を行き来する。その出発点には、大学卒業後の模索期に出会った一冊の本がある。ノーベル化学賞受賞者イリヤ・プリゴジンの著作『混沌からの秩序』だ。
「世界にいきなり線を引くのではなく、自然の混沌の中から柔らかい秩序が生まれる」。この一節に衝撃を受けたという藤本は、以来、建築を“完成されたシステム”としてではなく、“生成の途中にあるもの”として捉えるようになった。計画的に構築するのではなく、環境や人のふるまい、複数の要素が響き合いながら、やがて秩序が立ち上がってくる。そうしたプロセスにこそ、建築の未来があると考えるようになったのだ。
森のような展示空間──「ばらばらで、ひとつ」の実践
その「共存と響き合い」の思想が、もっとも雄弁に表現されているのが、展示の冒頭を飾るインスタレーション「思考の森」だ。300平米を超える空間には、藤本がこれまでに手がけてきた100を超えるプロジェクトから選ばれた模型やアイデアの断片が総計1000点以上、床にも天井にもところ狭しと並べられている。
「これまでの作品をただ整然と並べるのではなく、空間全体の構成を含めて、われわれの建築を体感してもらう場にしたかった」と藤本が語るとおり、あえて動線を設けない展示により、鑑賞者が自由に“森”の中を歩きながら思考をめぐらせることができる。
ここで示されているのは、単なる建築スタイルではなく、人と人、そして社会の在り方そのものだ。ばらばらであることが否定されず、それでもどこかで響き合い、つながっていく。その有機的な関係性のありようは、藤本建築の根幹であり、同時にこれからの社会にとってのビジョンでもある。


