もう「組織内キャリア型」では逃げ切れない
さらに、高齢化もミドルシニアの働くモチベーションを押し下げている。ミドルシニア世代はモーレツ世代の残り香が漂う中、残業も厭わず働いてきた。しかし、健康寿命が伸びたことで、経済的な事情などから定年後も働かざるをえない人が増加している。定年を意識し始める50代でも、多くの人が見据える必要があるのは悠々自適の引退生活ではなく、さらに10年、20年と働きつづける日々なのだ。
「今のままでいいのかというモヤモヤは、かつては若者のものでした。しかし近年では、ミドルシニアが将来を見据えたときに感じるようになり、さらに大きくなっています」(田中氏)
このモヤモヤは、キャリアプラトー(停滞)の一因となる。ミドルシニアが組織内キャリアで愚直に積み重ねてきた実績と安定感は、悪く言えばマンネリ感を生み、変化への抵抗感の原因にもなる。
「近年、ジョブ型や副業解禁など、企業は社会の変化に合わせて人事制度を変えています。今のミドルシニアは上の世代のように組織内キャリア型で逃げ切れると思っていましたが、そうはいかない。さらに今の人事制度は若手を優先したものが目立ち、ミドルシニアにはどこか自分たちのものではないという意識があります。その結果、仕事への熱意を失い、最低限の仕事をこなす『静かな退職』の状態に陥るのです」(田中氏)

自分のキャリアの「オーナー」たれ
田中氏は、処方箋があると説明する。ミドルシニアが所属組織で活躍するために築いてきたキャリアを、自分軸へとピボットさせ、外の世界へと広げられれば、キャリアプラトーから解放されるという。
鍵になるのは「プロティアン・キャリア」と「バウンダリーレス・キャリア」、二つの考え方だ。「プロティアン・キャリア」とは、ギリシャ神話に登場する変幻自在に姿を変えられる神、プロテウスにちなんだもので、1976年、ボストン大学経営大学院のダグラス・ホール教授によって提唱された。「変幻自在に自分でキャリアを作る。他人軸ではなく自分軸に切り替え、キャリアのオーナーになることです」(田中氏)
一方の「バウンダリーレス・キャリア」は、複数の組織や産業の境界を横断してキャリアを形成する必要性を説くもので、米・サフォーク大学のマイケル・アーサー教授によって提唱された。
「飛び越える境界は、社内の部署間にあるものでも企業間にあるものでもいい。プライベートで新しい活動を始めてもいい。小さな一歩を意識し、日常的に自分のコンフォタブルゾーンを超えていくことです。そうしてキャリアプラトーから脱出し、主体的に自らの人生を切り拓いていく『ライフプレナー』(ライフとアントレプレナー/起業家を合わせた造語)になることです」(田中氏)
そこで有効なのが、「キャリア・ストレッチ」と「中期キャリア計画シート」の作成だ。「キャリアストレッチ」とは、好きなことや関心のあることを軸に設定した目標を実現するため、1日3分間、行動すること。例えば「仕事でもう少し英語で意思疎通を図りたい」「社内イベントで告知フライヤーを作成するためにデザインを学びたい」など、何かしからキャリアにつながる目標を選ぶのがポイントだという。
1カ月間のキャリア・ストレッチ例

「キャリア開発は年に一度の伝統行事ではありません。筋トレやヨガで体の調子を整えるのと同じように、継続性が大事。今日、始めて続けられる行動を推奨しています」(田中氏)


