『ドラゴン桜』『働きマン』『宇宙兄弟』——数々の往年のヒット漫画作品を担当した編集者でコルク代表取締役の佐渡島庸平も参画するTHE PENが、IPビジネスの分野にAIツールサービスをローンチした。Visual Bank代表取締役の永井真之、THE GUILD代表取締役の深津貴之とともにこの7月にジョイントベンチャーを設立、漫画家のためのAI補助ツール「THE PEN」の提供を開始したのだ。
「隔週連載で20ページを13日間かけていた」あるベテラン超著名漫画家が、THE PENを活用することで6日間に短縮できたという導入事例がある。ペン入れはTHE PENに任せることで、作家はネームと線画の微調整だけに専念できる。その結果、「作業時間を6分の1以下に圧縮することができた」という。
以下、すでに発表されている情報と関係者へのヒアリングにより、「THE PEN」について紹介する。
「日本の漫画」、欧米でのシェア45.7%!
今や日本の漫画は2022年時点の欧米グラフィック市場で売り上げシェア45.7%を記録しているという(北米、フランス、ドイツ、イギリスの統計データを基に換算・集計)。
日本の漫画はとりわけ2000年代から、世界のトップクリエイター陣に多大なる影響を与えてきた。 たとえば『攻殻機動隊』は『マトリックス』の映像表現やテーマに影響を与え、『パシフィック・リム』は日本のロボット・怪獣文化を取り込んだ。 『銃夢』は『アリータ: バトル・エンジェル』として忠実に実写化され、『ストレンジャー・シングス』や『クロニクル』は『AKIRA』へのオマージュともいえる作品である。
だが同時に、日本の漫画家の過酷な労働環境は世界において顕著だ。高いクオリティを維持することが、漫画家にとって、「体力・金銭・時間」すべてにおいてすさまじい負担になっているのだ。
以下は日本とアメリカの漫画家の労働環境を比較したもの。日本の漫画家は週刊連載で月70〜80ページを描き、ストーリー構成から仕上げまでをほぼ一人で担う。
一方、米国では月20ページ程度が標準で、分業制も確立している。5〜6人の専門スタッフが関与し、コミックアーティストの労働時間も比較的管理しやすい。
漫画家の間には「AIツールを使いたい」というニーズはあるが、現状では商用に耐えうる品質が得られておらず、著作権侵害のリスクも懸念材料だ。その結果「使いたいのに使えない」というギャップが大きい。
THE PENが2024年10月〜2025年2月にかけたヒアリングでも、現場の期待と課題が浮き彫りになったという。個人漫画家からAIの進化による省力化への期待が寄せられた一方、AI事業者からは「良質なIPデータが不足している」との指摘が寄せられたのだ。
現在、多くのAIツールがはらむ問題
実は現在の漫画作成AIツールは、漫画家1人1人の画風や表現のクセを再現できるレベルには達していないという。それどころか、著作権者の許可を得ないまま学習した結果、顔や構図が平均化され、いわゆる「マスターピース顔」になってしまうなど、現場の要求に応えられない。つまり、商用に使える品質にはほど遠いという。



