世界で最も孤立した島(最も近い大陸から最も離れた島)は、バケーションに最適な、天国のような島ではない。まず、この島の地面の93%は氷河で覆われている。また、平均水温は氷点をわずかに上回る程度だ。さらにこの島では、コケ植物のほかは1本の木も、さらに言えば維管束を持つ植物(コケ類と藻類を除いた群)すらも見つからないだろう。
この島は、南大西洋に浮かぶブーベ島(Bouvet Island)だ。ノルウェーの属領であるブーベ島(ノルウェー語表記は「Bouvetøya」)は、亜南極に浮かぶ火山島で、南アフリカと南極大陸の中間に位置している。
50平方km弱の面積を持つこの島の大半は氷河で覆われており、その中に岩だらけの崖や溶岩原が点々としている。そして氷に覆われていない場所は、海岸沿いにほんの数カ所だけ存在する。人間の住まないこの島は、常に強風が吹き付ける過酷な環境であり、霧や雲に覆われて見えないことも多い。
そう聞くと、いかにも外界から隔絶された環境に思えるが、ブーベ島は驚くほど豊かな鳥類の生態系を誇る。栄養素が豊富な海に囲まれたこの島は、耐寒性の高い海鳥にとっては、理想的な営巣地となっている。実際、その生物学的価値の高さから、鳥類の保護を担う国際NGO「バードライフ・インターナショナル」から「重要野鳥生息地(IBA)」に指定されているほどだ。
イワトビペンギンから、風景に溶け込んで見えにくいユキドリまで、世界で最も孤立した島では、驚きの生態を持つさまざまな鳥たちを見ることができる。以下では、そのなかの4種を紹介しよう。
1. ユキドリ(学名: Pagodroma nivea)
ブーベ島に住む鳥の一つが、ハトほどの大きさの海鳥であるユキドリ(和名はシロフルマカモメ)だ。その真っ白な羽毛は、この島の氷河に覆われた風景に区別がつかないほど溶け込める。
ユキドリは、繁殖地が最も南にある脊椎動物で、南極や亜南極に浮かぶ島々に広く生息する。さらには、南極点に個体がいた事例も記録されているほどだ。
ブーベ島においてユキドリは、崖の岩肌やガレ場(石や岩などが積み重なった、足元が不安定な場所)の斜面、丸い巨石の下などにある、岩の裂け目に巣を作る。こうした場所が、猛烈な風をしのぐシェルターの役割を果たす。このような場所に設けた巣に、ユキドリは1個だけ卵を産み、オスメス両方の親が抱卵する。
ユキドリは、飛行能力に特に優れ、エサを求めて何百kmもの距離を飛行できる。主なエサは魚やオキアミ、イカ類だが、時にアザラシやペンギンの死骸から屍肉をあさることもある。
ユキドリは積氷との関連が深く、南極圏に住む海鳥の中でも、最も氷への依存度が高い鳥だ。海では、開放水面と分厚い多年氷のあいだの移行帯にあたる、海氷縁辺域(MIZ)に滞在することが多い。
学術誌『Polar Biology』に掲載された研究論文によると、ユキドリは、氷の張った海域の占める割合が中程度(12.5~50%)のエサ場を好むという。か弱そうな外見に反してユキドリは、地球上でも有数の過酷な気候に巧みに適応したサバイバーなのだ。



