経営・戦略

2025.08.01 12:00

株価380%増でV字回復のロビンフッド、新暗号資産戦略で奮闘

Images by Jesse Grant/Getty Images

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ウラジミール・テネフが最初に手がけたのは、証券業界の手数料モデルの破壊だった。そして今、暗号資産分野への注力を背景に、個人資産をわずか1年で約6倍の60億ドル(約9000億円。1ドル=150円換算)超にまで急増させた彼は、トークン化された株式、人工知能(AI)主導の投資、そして124兆ドル(約1京8600兆円)規模ともいわれる世代間の資産の大移転を通じて、世界の金融インフラそのものを手中に収めようとしている。

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6月のある晴れた午後、ロビンフッドは、地中海を望むカンヌの丘の上に建つベル・エポック様式の別荘「シャトー・ド・ラ・クロワ・デ・ギャルド」を貸し切り、「トゥ・キャッチ・ア・トークン(To Catch a Token)」と題した暗号資産のイベントを開催した。ヒッチコック監督の『泥棒成金』で有名になったこの地に暗号資産の関係者が集まるのは異例のことだが、この催しは、同社の暗号資産部門の責任者であり、長年南フランスのコート・ダジュールに住むヨハン・ケルブラによって企画されたものだった。

このイベントは、映画さながらの演出で幕を開けた。会場のスクリーンにまず映し出されたのは、ロビンフッド共同創業者のウラジミール・テネフCEOが、海沿いの曲がりくねった道をミッドナイトブルーの1962年型ジャガーEタイプ・コンバーチブルでドライブする映像だ。『泥棒成金』におけるケーリー・グラントの登場シーンへのオマージュだった。

この映像がフェードアウトすると、ピンストライプの白いトム・フォードのスーツに身を包んだテネフ本人が、JPモルガン、マスターカードなどの金融大手幹部、イーサリアム創設者ヴィタリック・ブテリンをはじめ、300人を超える招待客の前に現れた。

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株価380%増、ロビンフッドのV字回復

このような派手な演出は、今の彼らの財力を見せつけるものだ。ロビンフッドの株価は、ここ1年で380%以上も急騰して史上最高値の111ドル(約1万6650円)をつけ、時価総額は980億ドル(約14.7兆円)にも達している。同社は今や世界で最も価値のある企業250社の仲間入りを果たしている。

2024年のロビンフッドの業績は、売上高が約30億ドル(約4500億円)に対して純利益が14億ドル(約2100億円)だった。同社の預かり資産はここ1年で44%増加して、2550億ドル(約37.7兆円)に達している。そして、アクティブ口座数は2600万件と、チャールズ・シュワブの3700万件に急速に迫っており、モルガン・スタンレー傘下のEトレードの3倍、メリルリンチの6倍という規模に達している。テネフの個人資産はこの1年で6倍に増えて61億ドル(約9150億円)を超えた。

現在38歳のテネフCEOは、休むことなく動き続けている。5月下旬のラスベガスのイベントでは、3万5000人のビットコイン支持者に向けて、株式・債券・不動産などの資産をトークン化することでブロックチェーン上で24時間取引可能にして、いかに世界の金融を揺るがすのかを説明した。その後はタンパに飛んで、投資アドバイザー向けカンファレンスに出席した。さらに数週間後には、マンハッタンのロビンフッド本社で年次株主総会に登壇した。

「今週はニューヨーク、その次はフランス、そしてイギリスだ」と彼は矢継ぎ早に言いながら、アメリカ、ヨーロッパ、アジアにまたがるロビンフッドの十数カ所の拠点を次々と挙げた。「それぞれ年に1回は必ず足を運ばないといけない。オフィスはどんどん増えていくんだ」。

少年のような外見とは裏腹に、最近のテネフの口調は、巨大金融コングロマリットを率いるベテラン経営者そのものだ。2008年に端を発した金融危機と、2011年の「ウォール街を占拠せよ」運動の混乱から生まれた新興ブローカーは、今や成長した企業となった。ロビンフッドは、デジタルでの取引を好むテクノロジー世代に向けて、すべての金融サービスをワンストップで提供する企業を目指している。調査会社セローリ・アソシエイツによれば、この世代は今後の20年間で主にベビーブーム世代の親から約124兆ドル(約1京8600兆円)の資産を相続すると予測されている。

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編集=上田裕資

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