復活の核、暗号資産を武器に世界へ挑む
そして、冒頭で挙げたシャトーでのイベントは、ロビンフッドにとって初の国際的かつ暗号資産に特化しており、さまざまな発表が目白押しだった。同社は、7月から欧州のユーザーに向けて、ブロックチェーンベースの「ストック・トークン」の取引を公開する。これは、スペースX、OpenAIといった未上場のテック大手を含む米国株式、ETFを追跡する「議決権を持たない金融派生商品(nonvoting derivatives)」を、手数料無料で24時間週5日にわたって取引可能にする。
また米国の顧客には、イーサリアム、ソラナなどのブロックチェーンに暗号資産をロックして利回りを得る「ステーキング」がついに解禁される。6月にルクセンブルク拠点の暗号資産取引所ビットスタンプを2億ドル(約300億円)で買収したことにより、ビットコインとイーサリアムの「無期限先物」を欧州市場向けに提供可能になる。そして、それらすべてを支える基盤として、ロビンフッドは独自のブロックチェーンの構築に着手している。
「我々の業界は今、極めて重要な岐路に立っている」とVIPたちを前にテネフは語った。「我々がずっと信じてきたこと──つまり、暗号資産は単なる投機商品ではないということを世界に証明できる機会がようやく巡ってきた。暗号資産は、世界の金融システムの中核となる可能性を秘めている。私たちは、その可能性を必然へと変えたいと考えている」。
トークン化はロビンフッドにとって長期的な野望かもしれないが、その中核にある暗号資産事業はすでに巨大なものになっている。2024年、ロビンフッドの暗号資産関連の収益は、1年前の1億3500万ドル(約203億円)から6億2600万ドル(約939億円)に急増して、取引収益全体の3分の1以上を占めるまでに成長した。また、2025年第1四半期だけでも、暗号資産の収益はすでに2億5200万ドル(約378億円)に達している
暗号資産ベンチャーキャピタル(VC)ファーム「ドラゴンフライ」のゼネラルパートナー、ロブ・ハディックは「米国では今、ロビンフッドがコインベースの顧客を奪っている」と語る。カンター・フィッツジェラルドのノブロックによれば、2025年5月にロビンフッドの暗号資産取引量は前月比36%増加したのに対し、コインベースは減少したという。ノブロックは、コインベースは提供範囲が広く、カストディ機能もあるため、機関投資家市場は依然として彼らのものだと認めつつも、ロビンフッドが6月に完了させたビットスタンプの買収により、5000件の機関投資家の口座と欧州・アジアの追加ライセンスを獲得した点を強調した。
テネフとケルブラは、ロビンフッドのアプローチが、コインベースのような暗号資産取引所とは本質的に異なると主張する。「この業界の人たちは、どのブロックチェーンレイヤーが有利かという話ばかりして、ユーザーのことを忘れている。我々は、技術のための技術を作るのではなく、日常的に使えて、既存の金融システムよりも利便性を実感できるものを作りたい」とケルブラは語る。
リビットキャピタルの創業者のミッキー・マルカは、コインベースとロビンフッドの対立にばかり注目するのは近視眼的だと指摘する。「私にとって今後の10年で重要なのは、彼らが既存の金融機関からどれだけシェアを奪うかだ。この2社の争いではないのだ」と語る。彼は、ロビンフッド、コインベース、さらに欧州の競合Revolut(レボリュート)の初期投資家でもある。
ノブロックの推計では、現在2550億ドル(約38兆円)の資産を預かるロビンフッドは、今後7年以内に6650億ドル(約100兆円)の顧客資産を持つオンライン証券会社「インタラクティブ・ブローカーズ」に肩を並べると見ている。次に狙うのはチャールズ・シュワブだ。ロビンフッドは14か月連続でシュワブから市場シェアを奪い続けている。
収益安定化の鍵、ゴールド会員制度
テネフは事業の多角化にも本気だ。かつてロビンフッドは、PFOF(ペイメント・フォー・オーダーフロー)と呼ばれる顧客の注文データの外販に依存し、巨大な取引量とヘッジファンド頼みの「中毒体質」だと批判されていた。ロビンフッドの収益は現在も、取引関連が全体の56%(2021年は77%)を占めているが、ニーダム・アンド・カンパニーのマネージングディレクター、ジョン・トダロによれば、同社は今後2年以内に、それぞれが1億ドル(約150億円)超の収益を生み出す見込みの事業ラインを10本抱えているという。
その1つが、「ロビンフッド・ゴールド」と呼ばれるプレミアムプランだ。月額5ドル(約750円)または年額50ドル(約7500円)の有料サービスとして始まったこのプランは、マージン取引、プロ向け調査レポート、残高への利回り提供といった特典を提供するもので、今ではテネフの定額課金モデルの中心的存在へと成長している。現在の主な特典には、証券口座残高への4%の利回り、最大1000ドル(約15万円)までの無利子マージン貸付、IRAへの3%の上乗せ拠出などが含まれる。
また、新たに発行された「ロビンフッド・ゴールド・クレジットカード」は、すべての購入に対して3%のキャッシュバックが付くというもので、すでに最初の20万人の顧客に発送された。ノブロックは「ゴールドのユーザーが1500万人に達すれば、サブスクリプション収益だけで10億ドル(1500億円)近くに達する可能性がある。これにより、従来の景気変動に左右されるビジネスモデルから、安定的な継続収益モデルへと移行し、全体の収益基盤を多角化できる」と語る。
そして新たに登場したのが「ロビンフッド・ストラテジーズ」で、人間の助言とロボアドバイザーを組み合わせたハイブリッド型の資産運用サービスとして提供している。米国で60兆ドル(約9000兆円)市場ともいわれるウェルスマネジメント分野における、モルガン・スタンレー、メリルリンチといった伝統的大手への挑戦状ともいえる。
ロビンフッドは、このサービスのために、年率0.25%の管理手数料(ロビンフッド・ゴールド会員は最大250ドル[約3万7500円]で上限)で、株式とETFを中心にしたポートフォリオを個別に設計し、アルゴリズムによる運用とリバランスに人の手を加えている。ロビンフッド・ストラテジーズは、3月のローンチ以降、すでに3億5000万ドル(約525億円)の運用資産を獲得している。
テネフによれば、ロビンフッドの新商品の開発アプローチは「科学的」なもので、社内の少人数のチームに仮説検証を任せ、SNSでユーザーから直接フィードバックを得ながら改良していくスタイルを取っているという。
「多くの企業は、外の世界で何が流行っているかを見て、それを真似するという、競合ベンチマークの戦略をとっている。でも、私たちが新機能や新商品を出すときは、まず自分たちでそれを試している」とテネフは語る。たとえば最近発表した、住宅ローン商品(現状で30年ものの固定金利が6.1%、クロージングコストに対し500ドル[約7万5000円]を補助)は、6月から密かにオンラインでテスト提供を始めていたという。「その情報はSNSで一気に広まった。そして、私がSNSでパイロット中だと認めたときに、今年一番のバズった投稿になった」。


