経営・戦略

2025.07.31 12:00

「原点への回帰」を迫られる高級ブランド、2021年以降の市場拡大のツケが顕在化

高級ブランド店が軒を連ねるイタリア北部ミラノのビットーリオ・エマヌエーレ2世のガッレリア。2023年5月31日撮影(Giulio Benzin / Shutterstock.com)

高級ブランド店が軒を連ねるイタリア北部ミラノのビットーリオ・エマヌエーレ2世のガッレリア。2023年5月31日撮影(Giulio Benzin / Shutterstock.com)

高級品業界は、原点に立ち返る必要に迫られている。

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仏高級ブランドグループ「LVMHモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン」の上半期の利益は前年同期比15%減少した。本業の成長は同3%縮小し、ほぼすべての部門で業績は横ばいまたは低下した。競合する仏高級ブランドグループ「ケリング」の業績はさらに悪く、第2四半期の収益が前年同期比18%減少。主力ブランド「グッチ」の売上高は同25%落ち込み、上半期の日本を含むアジアでの全体の売上高は同29%減少した。ファッション部門とアジア・日本地域の成長の鈍化は両社に共通しているようだ。しかし、今期の業績は下降傾向が持続し、看過することができなくなっていることを示唆しており、背後に深刻な問題が隠れている可能性もある。

高級ブランド各社は2021年以降、急速な成長に注力し、市場を拡大するとともに占有率も高めてきた。伝統ある老舗ブランドを、大衆に受け入れられる巨大ブランドに変貌させ始めたのだ。これらのブランドが現在直面している問題は、関税や物価高、地政学的な不確実性だけではない。現在の状況は単なる一時的な需要の低下ではなく、原点への回帰を求める明確な兆候だ。高級品大手各社は過去数年間にわたって規模の拡大や大衆への認知度の向上、そして短命な文化を追い求めてきたが、ここへ来て、その結果を目の当たりにしている。

人気や流行を追い求める競争の中で、多くの高級ブランドは近寄りがたさや造詣の深さ、職人技術といった、元来持っていた本質を失ってしまった。過剰な露出は高級ブランドの戦略の一部であってはならない。

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LVMHとケリングの売上高が落ち込んだ一方で、仏高級ブランド「エルメス」は忠実な顧客基盤と極めて強力なブランド資産価値により、すべての市場で成長し、第2四半期の売上高が前年同期比9%増の39億ユーロ(約6700億円)となった。英調査会社サードブリッジのアナリスト、ヤンメイ・タンは、エルメスの業績について次のように評価した。「エルメスは積極的な販売量の拡大を追求するのではなく、希少性や職人技、ブランド資産価値に一貫して重点を置いてきた。同社の方針は、高級志向の消費者がブランドに対する審美眼と感情的な結び付きを強めている市場に適しているようだ」

この希少性を重視する方針は、競合他社とは異なり、エルメスが店舗の拡大や製品の拡張に重点を置いていないことを意味する。これが、同社が常に他のブランドとは一線を画している点だ。エルメスは有名人を起用した広告キャンペーンやブランドの名を冠した期間限定のカフェを営業することはなく、職人技術と物語性に重点を置いた意図的に抑制された手法を取っている。

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翻訳・編集=安藤清香

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