7月23日の発表を境にFRONTEO(フロンテオ)の株価は週を跨いで4日連続のストップ高だった。同社が市場の注目を一手に集めるのは今回が初めてではない。しかし、かつてAIリーガルテックとして知られた同社株が買われた理由は、創薬ジャンルで画期的な成果を収めたためだ。
背景にあるのは、同社が開発したAI創薬支援プラットフォーム「Drug Discovery AI Factory(DDAIF)」。このプラットフォームを用い、有効な薬が極めて限られる「膵がん」の標的分子をわずか2日で見つけ出し、そのうち6個においてがん細胞の増殖抑制効果が確認された。
しかも6個のうち4個は、これまで人間の薬学者による論文が1報もない新規分子。残りの2個も論文数は1と、ほとんど手つかずだったのだ。
では、なぜこのAI技術は研究者が十年以上費やしても得られなかった「未知の標的」を短時間で掘り当てることができたのだろうか?

「非生成AI」だからこそ可能な創薬へのチャレンジ
膵がんステージIV患者の5年生存率は1.6%しかない。ステージIIIでも5〜10%。発見が極めて困難なことも膵がん治療における大きな問題だが、有効な薬剤の開発が進んでいないことも、治療を難しくしている理由だ。
この膵がんには有効な分子標的薬に、K-RASG12C阻害薬がある。しかし、この遺伝子変異に適応する全患者の1〜2%にとどまる。つまり大多数の患者は、毒性の強い全身化学療法を繰り返す以外の選択肢しかなく、手術適応ではない状態で見つかることが多い。
新薬開発が強く望まれているが、ほとんど研究成果が出ていないのが現状だ。フロンテオがこのジャンルに自社のDDAIFを応用した研究に投資したのは、それが最も困難な研究だからだ。
創薬の開発プロセスは15年以上。長大な開発プロセスにおいて、最も大きなハードルが「標的分子」の発見である。標的分子とは、薬が病気に作用するためにターゲットとする特定の分子を指し、これを見つけることが薬の開発の出発点となる。
しかし研究対象となる遺伝子の数は2〜3万、病変形態は1.5万種類あり、それぞれを掛け合わせた組み合わせで有効性の推測を行う「仮説設定」を人間が網羅的に行うことは難しい。

標的分子の探索だけで2年以上の期間が必要であり、創薬にかかる膨大な時間とコストを増やしてきた。それだけに生成AIの応用も進められていたが、生成AIはハルシネーションによる誤誘導の可能性もあるほか、研究者に対して「なぜ有効だと考えられるか」という、作用機序を示せないという大きな弱点がある。
フロンテオはこの領域に、非生成AIで挑んだ。
フロンテオが実現した革新的なAI創薬技術
AIを活用した新たな創薬支援サービス『Drug DiscoveryAIFactory(DDAIF)』は、これまで国際的な訴訟支援などに用いるAI技術を医学・創薬分野に応用するAIサービスだ。
計算量は生成AIよりも軽く、従来の探索手法では見落とされてきた新規の膵がん標的分子を17個発見。先日の発表は、試験管内でのテストにより、そのうちの6個がK-RASと同等の細胞増殖抑制効果を発揮したというものだ。
もちろん、実際に薬が実用化されるまでには、まだ10年程度の時間がかかる。しかし、それでもDDAIFは今後、中長期的に注目を集めていくことは間違いない。標的分子探索の効率を大幅に向上させることは、すべての製薬会社にとっての念願だからだ。



