誰かから無視されたら、嫌な感じがする。では、会社から無視されたら、どんな気持ちになるのだろうか。それこそが、「静かな解雇(quiet firing)」に追い込まれた従業員が抱く感情だ。
静かな解雇とは、従業員を解雇しなくても、自ら辞めるようにもっていきたいと上司が考える時に起こることだ──その職場で働くことに不満や不快感を覚えさせ、従業員が自ら退職を願い出るよう仕向けるのだ。「静かな解雇」と呼ばれているのは、上司側が何かを言ったり行動を起こしたりする必要がなく、一歩引いて、成り行きに任せるだけでいいからだ。
身近な問題に感じられるというのは、あなた1人ではない。人事システム会社HROneの調査によると、「静かな解雇で辞めさせられる人を見たことがある」と答えた労働者は83%、「自分自身が静かな解雇に追い込まれたことがある」と答えた人は約35%に上った。
静かな解雇が、現代の職場でこれほど一般化したのはどうしてだろうか。静かな解雇が頻繁に起こっている背景には、厄介な事実が3つ潜んでいる。
不都合な真実その1:上司の中には、部下を管理できない人がいる
静かな解雇は、必ずしも急に起こるわけではない。じわじわと追い込まれていく場合もあるが、それは、上司が単にやるべきことをやっていないからだ。
その手の上司は、部下を一貫して指導することがない。良い悪いにかかわらず、フィードバックを滅多に与えず、部下に対して「言いにくい話」をすることを、何が何でも避けようとする。それは、努力したけれどもうまくいかなかったわけではない。一切やってみようとしなかった、ということだ。
80%の労働者は、期待されることやフィードバックがなく、方向性も示されない
こうした無関心な上司は珍しくない。Gallup(ギャラップ)の調査では、「ベストを尽くそうと思えるようなかたちで業務を管理してもらっている」と回答した労働者は20%にすぎない。裏を返せば、労働者のおよそ80%は、自分に期待されていることが理解できず、一貫したフィードバックも得られず、方向性が示されない職場で行き詰まっている可能性があるということだ。こうした状況では、静かな解雇のような事態が定着してしまう可能性がある。
自分のすべきことをまったくわかっていない上司もいる。管理職に就いてまだ日が浅いとか、戸惑っている、余裕がない、あるいは、とにかく疲れ切っているだけなのかもしれない。個人的な理由で、やるべきことを放棄しているわけではない場合もある。仕事が多すぎるか、そもそもリーダーシップについて学ぶことがなかったことの結果だ。
意図的であろうとなかろうと、そうしたかたちでリーダーシップを欠けていると、従業員はうろたえ、何の助けも得られないままとなり、少しずつ気力を失って、最後には諦めるか、辞めてしまう。長期にわたって気力を失わせるこうした行為もまた、静かな解雇とみなされる。
従業員のやる気は、70%が上司で決まる
その影響は、実に根深い。ギャラップの調査によると、従業員のやる気は、70%が上司で決まるという。つまり、上司がやる気を失うと、チームの士気もまた低下することが多い。このような破綻こそ、従業員が職場を去っていく原因なのだ。



