日米が22日(日本時間23日)に合意した関税交渉を巡り、「合意文書をつくるべきだった」との声が政界から上がっている。相互関税の税率が25%から15%に下がったものの、25日に行われた与野党の党首会談で、野党側から日米の間で合意の解釈に食い違いがあるとして、懸念や批判の声が出た。交渉に当たった赤沢亮正経済再生担当相はテレビ局への出演などを通じ、関税引き下げが最優先の課題で合意文書を作っている余裕がなかったという趣旨の発言をしている。
日米交渉を担当した経験がある外務省元幹部も、赤沢氏の発言に理解を示す。元幹部によれば、赤沢氏率いる日本政府の交渉団には、8度目になる今回の訪米で合意に至るという確信はなかった。トランプ米大統領との会談も、21日夕に行われたラトニック商務長官との会談を経て急遽決まった。元幹部は「こうした状況で、合意文書を準備できるはずもない」と語る。
外交交渉での合意文書を作成する場合、事務方が事前に協議して原案を作っておく。政治的な合意が必要な数字(今回の場合は税率や投資額など)や対象となる品目・分野などについては「TBD(To Be Determined=未確定)」と書き込んでおく。その原案を基に最終的な政治協議で決着させる。
ところが、トランプ米大統領にはこのやり方が通用しにくい。「トランプ氏と閣僚の間には断絶がある」(元外務省幹部)からだ。トランプ氏は関税交渉も含め、経済分野ではラトニック氏、ベッセント財務長官、グリア米通商代表部(USTR)代表らを競わせている。トランプ氏の関心は、「自分にどれだけ忠誠心があるのか」「ディール・メーカーとしての自分を、より偉大に見せてくれるのは誰なのか」という点にある。事務方からが努力して積み上げた案には関心がない。
トランプ氏の判断がなければ、何も決まらない。せっかく積み上げた原案も、トランプ氏の判断で大幅に変わることが多い。22日のトランプ氏と赤沢氏のやり取りも、税率の引き下げや見返りを巡る、「バナナのたたき売りのような協議」(元外務省幹部)だったという。赤沢氏が言う通り、合意文書をそこで作り直していたら、米国が相互関税を25%に引き上げるとした8月1日までに間に合わなかった可能性がある。トランプ氏と赤沢氏のやり取りを目の前にして、「合意文書を作らなければだめです」などというメモを差し入れることができる官僚など、世界を見渡してどこにもいないだろう。



