食&酒

2025.08.04 14:30

正しく批判するとは?

放送作家・脚本家の小山薫堂が経営する会員制ビストロ「blank」では、今夜も新しい料理が生まれ、あの人の物語が紡がれる……。連載第60回。


2025年大阪・関西万博(以下、万博)が4月13日に開幕した。

僕はテーマ事業プロデューサーのひとりとして、「食を通じて、いのちを考える。」をテーマにシグネチャーパビリオン「EARTH MART」を手がけた。準備に5年かかったので、開幕したときはさすがに感無量。あらためて、1周約2kmの巨大な円のなかに世界約160の国・地域や国際機関が、争うこともなく、悪意もなく、ただ純粋に自前の文化を発信したいという思いでいることに感動を覚えた。

コモンズ館ではエスワティニやスリナムなど、これまで耳にしたことのなかった国や地域のブースを見て、それこそ海外旅行をしている気分になった。円安の日本で海外旅行は「高嶺の花」のいま、向こうから日本に来てくれているだなんて、幸運なことではないだろうか。

シグネチャーパビリオンでいうと、僕を含む8人のテーマ事業プロデューサーは、やはりそれぞれまったく趣味嗜好が違っていた。おそらく8人とも自分のパビリオンがいちばん面白いと思っているだろうし(そうでなくては困る)、それぞれのパビリオンにそれぞれのファンがついている。万博では「一人ひとりが互いの多様性を認め、『いのち輝く未来社会のデザイン』を実現する」と謳われているが、人の価値観の多種多様さをいまの日本でこれほどいっぺんに感じ入る場所は他にないだろう。

多様性を認めるというのは、正しく批判ができるということだ。“批判”とは、相手の価値観をまず認め、良し悪しを自ら見て判断するところから始まる。自分の考えや趣味嗜好と違うというだけで相手を“非難”するのは、現代に即していないし、カッコ悪い。好きになる必要はないけれど、認めるということ。それを、万博会場でひしひしと感じている。

いまと昔の旅の違いとは?

5月1日、LAにある日本文化の発信拠点、ジャパン・ハウスで「EARTH FOODS 25|Future of Global Food Sustainability」というイベントを開催した。主な内容は対談と試食。フードテック伝道師であり投資家でもある外村仁さんをゲストに迎え、日本の伝統的な食材25品目を厳選した「EARTH FOODS 25」を紹介しながら、世界的な食の課題と日本の伝統食の持続可能性について語り合った。その次に食材25品目──梅干し、昆布、こうじ、大根、山椒、あんこ、漬物、徳島県産のすだちやゆずなどを使った料理を提供した。参加費はひとり40ドルだが、約120人の方が来場したのにはびっくり。LAの皆さんは日本の食文化について、関心が高いのかもしれない。

ちなみに、僕が総合プロデューサーを務める料理コンペティション「RED U-35」は今年、テーマを「日本から世界へ」とし、1次審査では「EARTHFOODS 25」を使って料理をしてもらう。最終審査と授賞式は、万博のメイン会場で行う予定だ。

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写真=金 洋秀

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