食&酒

2025.08.04 14:30

正しく批判するとは?

さて、久しぶりのアメリカ滞在で思い出したことがある。1982年、大学1年生で経験した、人生初の海外旅行のことだ。

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僕はラジオ局でアルバイトをしていて、長谷川勝士さんという放送作家の大先輩と知り合った。ある日、長谷川さんに「友達とNY行くんだけど、お前も来る? ただし旅費だけは自腹な」と言われた。当時1ドルは約250円で、ノースウエスト航空の往復チケットが30万円。必死にバイト代を貯めて空港に向かうと、「友達」というのは三宅裕司さんだった。

僕らはタイムズスクエア近くのパラマウントホテルの同室で寝泊まりした。三宅さんはブロードウェイのミュージカルを毎日見まくっていて、僕とはビデオショップ巡りをした。三宅さんはコントの材料にするビデオを、僕は現代美術作家のナム・ジュン・パイクのアートビデオを探していたのだ。Google Mapなどない時代、自ら情報収集をして目当てのものを探す日々は、本当に楽しかった。

そのころといまの旅の仕方で、大きく変わったのは何か。やはりネットで口コミや点数を確認できることだろう。つまり、「他人の価値観で自分の旅が決まっていく」わけだ。みながいいと書き込んでいる場所や店は、確かに大きな失敗もないだろうし、安心・安全かもしれない。でも、面白みには欠ける。さきほどの批判の話にもつながるけれど、他人の価値観を認める一方で、やはり自ら探しあて、自ら見たものしか評価はできないし、感動もしないのではないかなどと思う。自戒をこめて。

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今月の一皿

「EARTH FOODS 25」の1品目である梅干しをペースト状にしてつくった料理人ゴローのオリジナル野菜サンドイッチ。

blank

都内某所、50人限定の会員制ビストロ「blank」。筆者にとっては「緩いジェントルマンズクラブ」のような、気が置けない仲間と集まる秘密基地。


小山薫堂◎1964年、熊本県生まれ。京都芸術大学副学長。放送作家・脚本家として『世界遺産』『料理の鉄人』『おくりびと』などを手がける。熊本県や京都市など地方創生の企画にも携わり、2025年大阪・関西万博ではテーマ事業プロデューサーを務める。

写真=金 洋秀

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