「ソロ起業家」の時代が始まった
コード生成AI・バイブコーディングのブームは、ビジネスの立ち上げの当初からプロンプトを用いて製品を作り上げる、プロンプトネイティブな「ビルダー」と呼ばれるソロ起業家の新たなカテゴリーを生み出している。これらのクリエイターは、従来のコードではなく、プロンプトとAPIを使って、特定のコミュニティや業界向けの軽量なツールを構築している。彼らはその多くを、有料アクセスや統合機能、AIモデルのマーケットプレイスを通じて直接マネタイズしている。
たとえば、専門的知識を学習させたチャットボットのセラピストを構築する者もいれば、ポッドキャスト用のスクリプト生成アシスタントや移民法関連のボット、不動産業界のオンボーディング支援ツールを開発する者もいる。彼らの共通点は、開発スピードの速さにある。これらのソロ起業家は、時には数時間、長くても数日で機能するプロダクトを立ち上げている。
「これまでは、技術面での複雑さが企業を競争で有利にするという考え方があったが、それはもう通用しない」とテルマーテンは語る。「今の時代における本当の優位性は、誰よりもオーディエンスを理解して、VCに支援されたチームが大急ぎで競合製品を市場に投じる前に、プロダクトを届けることにある」。
このモデルでは、コンピュート(計算能力)はサービスとなり、パーソナライズがプロダクトになる。そして旧来のスタートアップが経てきた、資金調達や人材の採用、インフラ構築といったプロセスは、単に時間がかかるだけでなく、無駄ともいえるものになっている。
「小さく作る」ことで得られるもの
この状況の進化の背景には、分散型または最適化されたコンピュートがもたらすコスト削減が挙げられる。Vertical AIのようなプラットフォームは、分散GPUネットワークを活用することで、従来のクラウドプロバイダと比べて40〜50%のコスト削減を実現している。この効率性により、個人が有料ツールやサイドプロジェクトを立ち上げることが現実的になっている。
この取り組みは、シンプルな仕組みで利益を出しやすい構造になっている。たとえば、クリエイターが100ドル(約1万4800円)以下のインフラ費用で、実際に価値を提供するAIプロダクトを立ち上げて、サブスクリプションや従量課金を通じた収益化が可能になる。こうしたプロジェクトの多くは、数百人のユーザーがいれば採算ラインに乗せられる。
「我々が目指したのは、中央集権型のコンピュートの利便性を保ちながら、分散型の価格とコントロールを提供することだった」とテルマーテンは言う。「そうやってAIを、単なる理論ではなく、現実の予算の中で手に届く存在にしていく」。
このような構造は、これまで単なるサイドプロジェクトだったものを、実際の収益源に変えつつある。しかも、巨大なAIモデルのように莫大なトレーニングコストをかけずに、ファインチューニングやAPI連携型のモデルをベースにすることで、ローンチまでの時間を大幅に短縮している。
AIのハイプを超えて
このムーブメントは、「次のOpenAI」を作るためのものではなく、「次の安定した収益源」を作ることを目的としている。1人で事業を立ち上げる創業者やセラピスト、クリエイター、コンサルタントたちにとって、コード生成AIは、自らの専門性をプロダクト化し、それによって収益を得る手段を提供している。そして、彼らはVCにプレゼンをしたり、開発チームを雇ったりせずに、自分のビジネスを実現する。
「我々は、教育者やセラピスト、建設現場の管理者までもが、自分のAIモデルを立ち上げるのを見てきた」とテルマーテンは語る。「彼らが求めているのは、資金調達ではなく、課題の解決であり、ニッチな市場にサービスを届け、対価を得ることだ」。
これは、独立性と実用性に根ざしたこれまでとは異なるタイプの野心を形にする試みだ。そして、過剰な資金を得た実験的プロダクトや、使われることのないツールがあふれる今の世の中において、こうした方向に向けた努力こそが、AIの本当の未来を切り開くのかもしれない。


