チップがインフレを加速させる
一方、サービス業従事者にとって、チップは重要な収入源だ。調査によると、美容師の約20パーセントの収入はチップに依存しており、お客の55パーセントが「明朗な価格設定のほうが望ましい」と答えている。
チップ文化の拡大を受け、都市部では法整備も進行中だ。
例えば中西部の大都市シカゴでは、段階的に「tipped minimum wage(チップ込み最低賃金)」を廃止する条例が進行中で、移行期間には店舗閉鎖や賃金体系の混乱の報告もある。
今回の「No Tax on Tips Act(チップ非課税法案)」は、金をもらうなら給料でなくてチップでもらうほうが、手取りが増えるという矛盾を生み出し、採用基準においてもチップの多寡がますます重視されるようになっている。
筆者の住むラスベガスでは、チップだけで年間1000万円以上稼ぐ人もざらにおり、チップをもらえない管理職よりも、その部下のほうが稼ぐという逆転現象が一般化している。
今回の「No Tax on Tips Act」法案は、その逆転現象をさらに強め、今後は管理職などの賃金上昇も避けられず、インフレを加速させる要因にもなりうる。
一般国民の間では反発も起きており、ネット上には「チップ疲れ」「暴走するチップ文化」という言葉も見られる。
「WalletHub」の調査では、約90パーセントのアメリカ人が「チップ文化は過剰化している」と回答。過半数が「義務的にチップを払っている」と感じているという結果も出ている。
チップのない飲食店などほとんどないため、外食自体を控えるという人も増えている。
ラスベガスのようにサービス業が街全体を支えている都市は別として、製造業中心の地域ではチップ文化への強い嫌悪感さえ聞こえてくる。
世代別の傾向にも変化がある。若年層はチップを「労働を支える仕組み」と捉える一方で、高齢層は「安易にぼったくられている」と感じているという傾向がある。


