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2025.07.29 08:00

『サウスパーク』の原作者2人がビリオネアに、資産はそれぞれ1800億円

『サウスパーク』のクリエイターであるトレイ・パーカー(写真右)とマット・ストーン(同左)

ストリーミングが巨額の富を生んだ

2人が手にした驚異的な金額は、『サウスパーク』の根強い人気の証しだ。『サウスパーク』は1997年にコメディ・セントラルで放映が始まり、2シーズン目にはケーブル局の非スポーツ番組として史上最高の視聴率を記録し、視聴者数は約600万人に達した。この番組はコメディ・セントラルにとって長年不可欠な存在となっており、現在までに制作された300本超のエピソードは、何度も再放送されている。

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パーカーとストーンが、後に巨額の利益を生むことになる一手を打ったのは、2007年のことだった。彼らは弁護士でビジネスパートナーのケビン・モリスと共に、Flashプレーヤーを使って『サウスパーク』のエピソードをオンライン配信する契約をコメディ・セントラルと結び、その時点では存在していなかったデジタル収益を「『永久に』50対50で分配する」と取り決めたのだ。

その後、ストリーミング革命が到来した。2014年にHuluが『サウスパーク』のストリーミング権を8750万ドル(約130億円)で獲得し、その後の更新で2019年までの契約として1億1000万ドル(約163億円)に増額した。そして2019年にはPeacockやNetflixとの争奪戦の末にHBO Maxが5億5000万ドル(約814億円)を支払い、5年間の独占ストリーミング権を取得したが、この契約は今年6月に終了した。

パーカーとストーンは、過去の作品をHBO Maxで配信させる一方で、2021年にはパラマウントと別の契約を結び、Paramount+向けの新作コンテンツの提供で年間1億5500万ドル(約229億円)を得ていた。2人は21日の新たな合意で、その契約条件を再交渉し、年間の支払い額を2億5000万ドル(約370億円)に引き上げた。

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独立を貫く2人のビジネス帝国「パーク・カウンティ」

パーカーとストーンは、その莫大な富を2人が全額出資している「パーク・カウンティ」に注ぎ込んでいる。パーク・カウンティは『サウスパーク』の架空の町と同じ名前の制作スタジオだ。彼らは2012年に設立した同社を通じてテレビ番組、映画、さらには共作した舞台『ブック・オブ・モルモン』の収益をすべて処理しており、それぞれの年俸を推定1000万ドル(約15億円)程度にとどめている。

賢い節税スキーム

このような法人構造はハリウッドの高額所得者の間では一般的だが、リース・ウィザースプーンのハロー・サンシャイン、ブラッド・ピットのプランBエンターテインメントなどとは異なり、パーク・カウンティは外部の出資者や投資家を一切受け入れていない。

その代わりに2人は2012年、『サウスパーク』やその他プロジェクトから得られる既存および将来の収益を担保として、メディア専門の商業銀行レイン・グループから、転換社債の形をとって6000万ドル(約89億円)を借り入れた。これは期限通りに返済すれば株式の保有権はすべて自分たちに残るという条件だった。彼らのこの賭けは、その後のストリーミング収益の流入によって成功し、2016年にはレイン・グループの持ち分を買い戻して、それ以降は完全な所有権を維持している。

パーク・カウンティは、その後も借り入れを通じて成長に向けた資金を確保しており、2023年にはプライベート・エクイティ大手のカーライル・グループから8億ドル(約1184億円)の与信枠を確保した。こうした借入コストの活用や、コンテンツ資産の減価償却をめぐるハリウッド流の会計処理により、パーク・カウンティは税負担を大幅に軽減し先送りすることに成功している。

最終的な出口戦略としては、いずれ会社を売却し、債権者や税務当局への清算を済ませた上で、残ったキャッシュを手にすることが想定できる。

関係者がフォーブスに語ったところによれば、2019年にはコメディ・セントラルの当時の親会社、バイアコムとパーク・カウンティの間で、まさにそのような売却についての協議が行われていたという。これはディズニーによるルーカスフィルムやマーベルの買収に似たスキームだった。

しかし、パーク・カウンティの評価額を10億ドル(約1480億円)とする前提で進められたこの協議は、途中で頓挫した。同年、バイアコムはCBSとの複雑な合併交渉の渦中にあり、高額の買収を進めるのが困難な状況だったためだ。その後、両社は2021年に再び交渉のテーブルについたが、その際に結ばれた制作契約は6年間で9億3500万ドル(約1384億円)にのぼり、買収で想定された額とほぼ同じ規模となったものの、所有権の移転は行われなかった。

フォーブスは、パーク・カウンティが安定した収益と高い収益性を有していることから、同社が仮に現在売却されれば、評価額が最大30億ドル(約4440億円)に達し、パーカーとストーンがそれぞれ10億ドル(約1480億円)以上を手にする可能性があると試算している。

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編集=上田裕資

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