先日の本欄ではこの夏にぜひ読みたい本を紹介したが、今回もまず、いくつかの古典的な作品に光を当てることから始めたい。英国の文豪チャールズ・ディケンズの『リトル・ドリット』、フランスの大作家オノレ・ド・バルザックの『幻滅』と『ゴリオ爺さん』だ。19世紀半ば、ナポレオン戦争によってもたらされた債務負担が影を落とすなかで書かれたこれら3つの小説は、借金を返済できない人が収監された「債務者監獄」、借金の取り立て、過剰債務による財産放棄など、債務の悲惨な側面を描き出している。
これらの作品が頭に思い浮かんだのは、市場がまさにいま非常に劇的な運命=富(フォーチュン)の変化を織り込みつつある可能性があるからだ。この変化は、実際に起これば歴史的なものになり、広範な影響を及ぼすことになるだろう。これに関して、注目すべき動きが少なくとも3つある。
1つ目は、企業の金利と「安全」とされてきた国債の金利との差が歴史的な小ささに縮まっていることだ。よりテクニカルに言えば、米国市場で社債のスプレッド(ここでは10年物米国債の利回りに対する上乗せ金利)やリスクが高めのハイイールド債(低格付け社債)のスプレッドは、長期平均の水準を大きく下回っている。これは市場のリスク選好の強さや債券需要の高さの表れであると同時に、企業の債務水準が(概して)非常に管理しやすい状態にある一方、政府の債務水準はそうではないと市場が認識していることを示している。
2つ目は、新興国市場の債券(国債と社債)と米国債のスプレッドも数十年ぶりの小ささに縮小していることだ。これもまた、投資家の貪欲な利回り欲求を映すとともに、新興国債券のリスク評価が(米国のような国と比較して)見直されていることを示唆している。国際通貨基金(IMF)の「財政モニター」2025年4月版によれば、新興国全体(中国が含められて数字を押し上げている)では、政府債務の国内総生産(GDP)比率は約75%と過去最高の水準に達している(編集注:中国を除く新興国全体では約58%)。



