2025年という常軌を逸した年から早く抜け出したいと願っているセントラルバンカーのリストがあるとすれば、その最上位に名前があるのは日本銀行の植田和男総裁だろう。
いや、米連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長のほうがもっとひどい年を送っているという意見もあるかもしれない。何しろ、ドナルド・トランプ米大統領から解任すると脅されているのだから。24日にはトランプがじきじきにFRB本部の「視察」を行い、パウエルはヘルメットをかぶって同行するハメになった。
しかしFRBの場合、政策決定の筋書きは経済状況からおのずと定まりつつある。そもそも、FRBは利下げをすべきだという主張は経済的な根拠があって言われているわけではなく、たんに“トランプワールド”への忠誠心から唱えられているにすぎない。現実には米国の6月の消費者物価指数(CPI)はエネルギーと食品を除くコア指数の上昇率が2.9%に加速しているし、関税の影響で物価はさらに押し上げられる公算が大きい。そんななかで利下げをすれば「債券自警団」を刺激してしまい、米国債の利回り上昇を招きかねない。
それに比べて、日銀の植田のチームは30~31日の金融政策決定会合ではるかに難しい判断を迫られるだろう。まともな日銀ウォッチャーはほぼ全員、政策金利の据え置きを予想している。だが日銀はおそらく、政策金利を0.25ポイント高い0.75%に引き上げたくてうずうずしているに違いない。そうすることで、金融政策の「正常化」路線はなお健在だと市場に知ってもらいたいのが本音のはずだ。
植田には、日銀はいま、2007年のような岐路に立たされているのではないかと案じるもっともな理由がある。同年、日銀は政策金利を現在と同じ0.5%までどうにか引き上げていた。ところが翌2008年、リーマン・ショックのあおりで方針転換を余儀なくされた。金利はたちまちゼロに戻り、日銀が畳んだと思っていた量的緩和(QE)政策も復活した。



