高級ブランド品を、いわゆる「憧れを持つ消費者」層に向けて、より手の届きやすい形で提供する「ラグジュアリーの大衆化」は、2008年から2009年の世界同時不況以降、高級品市場を最大化する手段として用いられてきた。
2009年から2019年の間に、個人向け高級品市場はほぼ2倍に拡大し、284億ユーロ(約4兆9300億円)に達した。新型コロナウイルスの流行が収束すると、この市場は再び急激に成長し、2021年の293億ユーロ(約5兆800億円)から2023年には369億ユーロ(約6兆400億円)に拡大する。しかし、企業向けコンサルティングサービスのBainによると、2024年には364億ユーロ(約6兆3200億円)と縮小に転じたという。
2009年から2023年のダイナミックな業界の成長は犠牲を伴った。「拡大競争の中で、『高級の本質』が一部失われてしまった。業界の多くが、エクスクルーシビティ(選ばれた人のみが手に入れられる排他性)をリーチ(より多くの人に接触しようとすること)と交換し、不変性を変動性と引き換えてしまったのだ」と、BCG(ボストンコンサルティンググループ)の共同経営者であるフィリッポ・ビアンキは、BCGとアルタガンマ財団による最新の共同調査報告『世界的な本物の高級品消費者に関する洞察』に記している。
「高級に憧れる層」の消費が減速
2025年、高級品市場は(コロナ禍期間を除き)15年ぶりの大きな減速に直面しており、BCGはその要因をブランドが「憧れを持つ消費者」層に過度に依存したことにあると指摘している。
現在、高級品への支出額が年間約5000ユーロ(約87万円)未満の「憧れを持つ消費者」層における35%もの多数で、高級品消費を抑制し、その支出を貯蓄や投資、健康そして中古高級品に振り分け、より手頃な価格のファッションに移行する消費動向が見られる。
「以前は成長を牽引してきた層が、今は脆弱性を露呈している。現在、このような消費者の約50%が経済的な弱さを感じている」と、ビアンキは続けている。
高級に憧れる消費者層に最も依存してきたブランドがその標的となっている。「顧客の50%以上を、高級に憧れる消費者層が占めるブランドは、過去12カ月の間に最も急激な減少に見舞われ、著しく業績が悪化している」
BCGは具体的なブランド名を挙げていないものの、疑わしいブランドは労せず見つかる。ルイ・ヴィトンを中心とするLVMHのファッションおよび皮革製品部門は、2025年第1四半期(1-3月期)の売上高が前年同期比5%減、グッチやイヴ・サンローランが先導するケリングは同14%減に落ち込んだ。



