皆、時を遡ることを夢見たことはあるだろう。犯した間違いを正したい時、それをそもそも無くしたい時、助けたかった命があったり、未然に防ぎたかった大惨事があったり、成せられることは計り知れずあるようだ。それをどうやってするかは未だ分かっていないが、根本的に時を遡ることが不可能である理由があるかもしれない。
映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のブラウン博士は果たして正しかったのか。下記の通り、まさにそれがアレックス・ナップ氏が問い掛けていることだ:
わが家の8歳児は初めて「バック・トゥ・ザ・フューチャー」を見て、ブラウン博士が言う通り、「一時的な逆理の発生は、時空連続体を崩壊させ、宇宙全体を破壊する可能性があるのか」と疑問を抱いている。
少し大袈裟かもしれないが、一時的な逆理は「些細な心配事」より遥かに大事かもしれない。それがなぜかを共に考えてみよう。
今日ある宇宙の在り方において、このような結果に至ったことがいかに起こり得ないことだったかを理解しなければならない。138億年もの間、観測できる範囲の宇宙だけでも、そこにある全ての粒子(おおよそ10の90乗個)が、数えきれない回数ぶつかり合ってきたんだ。
そのような粒子同士の接触があったからこそ、大規模な話だと星や銀河系、そして生命を産んだ重元素、有機分子や(地球などの)惑星が形成されたのだ。
我々が存在するに至るまで私たちの惑星が辿った道のりは、宇宙が許し得た極わずかな可能性の中で、極めて起こり難い出来事が連なった結果である。
例えば、ブンブン飛んでいるハエに気を取られたかどうかのような、10年前に起きた気づかないほど些細な変化が、将来の恋人に気づくかどうかの違いを生んでいたかもしれない。ハイキング中に足を踏み出した場所が、若い毒蛇に出くわして噛まれるかどうかの違いに至っていたかもしれない。海辺を辿って流れる水分子の小川が、悲劇的にも子供が海で溺れてしまうか、そうでなくて穏やかな1日となるのかの運命の分かれ目だったかもしれない。
物理の世界ではこの現象を「カオス」と呼ぶ。初期的な条件に微小な違いが生まれることで、時間が経つにつれ、劇的に変わった結果に繋がるかもしれない。我々がどうにかして宇宙に存在する分子の歴史全てを遡るとしたら、それぞれの分子が特定の道を辿って反応を起こしたことがわかる。それぞれの道のりは決して決められていたわけではない。宇宙をシミュレーションし、改めてその始めから再生させたら、同じ結果になっている可能性は極めて低いだろう。
この宇宙の多くの過程は作為的でない。量子学力という基礎的なレベルにおいても同様である。そうした過程の結果は本質的に不確かであり、根本的に予測不可能だ。量子物理学において我々が計算できるのは、結果が起こる確率だけであり、特定の結果を確実に予測することはかなわない。
ここまで説明に手間をかけてきたのは、今の宇宙、そのありのままの在り方が、いかに宇宙の歴史上で数えきれないほど幾度も下されてきた量子的決断の結果であるのかと言うことを強調するためである。全く同じ結果に改めて至る可能性は、同様の条件と法則を用いようと、ほぼ「無」に等しい。
そのため、時を遡り過去を変えようと、今ある世界に至ることは決してないだろう。必然と様々なことが変わってしまい、最悪な影響が起こりかねない。



