最初のシナリオ下、パラドックスに意味をつけるとしたらあなたが過去に戻って「したこと」や「起こした影響」はもう起こっていたということだ。宇宙が今の状態に至ったのは、タイムスリップを含む、そのようなあなたの存在上起こった全ての行動の結果でもあるのだ。
しかし、あなたがあきらめるのは、あなた自身の行動によって宇宙を変える能力である。今日、あなたがとった行動が、明日の結果にとって信じられないほど重要な意味を持つことは、あなたもよくご存じだろう。仕事に行くのか、上司を殴るのか、車で海に突っ込むのか、その結果はとてつもなく大きい。しかし、もしあなたが過去にさかのぼり、そこで行動したとしたら、その結果はすでに決まっているはずだ。不安な考えだ。
さて二つ目の展開としては、過去は綴られておらず、自分が今から起こす行動は過去に起こったことに結びついていないということだ。現在存在する宇宙は、過去に遡っても現在の状況に縛られることはない。両親が妊娠する前に自分の祖父を殺すことも、両親が出会って恋に落ちるのを阻止することも、第二次世界大戦前にヒトラーを殺すことも、シーザーを暗殺する前にブルータスやカシウス、マーク・アントニーを暗殺することもできる。
単刀直入にいうと、歴史は変えられるのである。
一つの条件として、タイムトラベル後帰る未来の宇宙と、当時タイムトラベル前に生きていた未来の宇宙は存在としては同じだということだ。あなたの行動は未来を変えることができるが、その代償として、タイムトラベルした時の後に起こったことはすべて、新しい別の歴史に書き換えられてしまうのだ。あなたが知る宇宙、歴史が変わる前の未来は抹消されているか、あるいはあなたがもはや住むことのできない宇宙に書かれているのだ。
あなたが今、時の空間のどこにいるかで、あなたがタイムスリップしなかった場合とは、未来が大きく異なる展開を見せることになる。この新たな未来では、あなたは生まれてもいないかもしれない。タイムトラベルした目的地に到着したその瞬間、やっとこの世に存在することになるかもしれない。つまりはあなたは、別の世界からの訪問者となるのだ。
我々は未だ、現実の性質の全てを理解できていない。量子力学の法則で観測可能な宇宙が、唯一の宇宙なのか、それとも別のパラレルな宇宙が存在するのかもわからない。宇宙が決定論的かどうかもわからない。量子物理学は決定論的でないことをかなり強く示しているように見えるが、抜け道があるかもしれない。また、過去が永久に書き残されるものなのか、それとも変幻自在なものなのかも分からないのだ。
時を遡ることは数学的にはもちろん可能だ。だが、物理的に可能であるかは議論の余地がある。しかし、もしそれが可能だとしても、あなたやあなたの友人が、この世界ですでに降りかかった運命を避けることはできない。今日あることは、過去に起こったことの結果であり、その「記録」はすでに綴られている。未来のために本当に大切なのは、私たちが「今」起こしている行動なのだ。
※本稿は2021年8月に公開された英文記事を、著者Ethan Siegel氏確認のもと翻訳したものである。


