宇宙

2025.12.04 16:15

あるはずのない超巨大ブラックホールが存在するパラドックス

ガスの豊富な現実的環境で、ふたつの超大質量ブラックホールが合体するシミュレーションを示した連続画像。両者の質量が十分大きければ、単独の事象としては宇宙全体で見ても最も活発なものになると考えられる。 ESA

ガスの豊富な現実的環境で、ふたつの超大質量ブラックホールが合体するシミュレーションを示した連続画像。両者の質量が十分大きければ、単独の事象としては宇宙全体で見ても最も活発なものになると考えられる。 ESA

宇宙に存在するブラックホールには、大きく分けてふたつのタイプがある。ひとつは、大質量星の死や、中性子星のようなコンパクト天体同士の合体によって生じる低質量ブラックホール。もうひとつは、ほぼすべての大質量銀河の中心に存在するとみられる超大質量ブラックホールだ。

ファイナル・パーセク問題

2015年に重力波望遠鏡の改良型LIGOが宇宙からの重力波を初めて「目にして」から、低質量ブラックホール同士の合体が数多く観測されてきた。わずか数年で60件以上の合体が観測されたことで、アインシュタインの相対性理論によるいくつもの予測が非常に高精度で裏付けられた。

しかし、同じ重力物理学の予測でも、超大質量ブラックホールでは事情が異なる。低質量ブラックホールとは違い、ふたつの銀河が合体しても中心部の超大質量ブラックホールは互いに合体する途中で止まってしまうというのだ。この予測は近年、天文学者のあいだで「ファイナル・パーセク問題」と呼ばれている。あまり知られていないが、物理学では最も熱く議論されているパラドックスのひとつである。

重力のダンス

ブラックホールの降着円盤は観測できても、ブラックホール同士の合体で生じる電磁波は検出不可能。電磁波が検出されるのは中性子星同士が合体したときだ。一方、重力波は確実に捉えられる。  NASA / Dana Berry (Skyworks Digital)
ブラックホールの降着円盤は観測できても、ブラックホール同士の合体で生じる電磁波は検出不可能。電磁波が検出されるのは中性子星同士が合体したときだ。一方、重力波は確実に捉えられる。 NASA / Dana Berry (Skyworks Digital)

ふたつのブラックホールが合体するとき、いったい何が起こっているのだろうか。

 多くの人が思い描く銀河は、星々で満たされていて、それぞれの星がバラバラの軌道を回っているイメージだ。最も熱く、青く、大質量の星は、燃え尽きて死を迎えるのも最も早い。最後にはⅡ型超新星爆発を起こし、中性子星やブラックホールに生まれ変わる。

 このように、銀河を舞台にして「重力のダンス」を踊っているコンパクト天体が、ときには互いに衝突し、中性子星同士、ブラックホール同士、あるいは中性子星とブラックホールの合体が起きるのではないか。そう考えるのは自然であり、現実に起こりうるとも考えられている。もっとも、このような形で合体するコンパクト天体の割合は非常に低く、無視できるほど少ない。実際、これまでに直接観測されてた合体の中に、このプロセスで生じたと思われる例はひとつもない。そこには異なるメカニズムがある。

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翻訳=門脇弘典/S.K.Y.パブリッシング 編集=石井節子

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