パラドックスを回避する宇宙
とはいえ、銀河の中心部を詳しく観測した結論から言えば、あくまでも超大質量ブラックホールは単独で存在する。
地球から比較的近い活動銀河の観測精度は非常に高い。観測による結論は覆る可能性があるとはいえ、銀河が何で構成されていて、重力がどのように働き、ブラックホールなどの大質量物質をいかにシミュレーションすればよいかの知見は確立されている。そこから理論的に導かれたのが、銀河同士の合体において中心核のブラックホールは0.1~10光年までしか接近しないという予測だ。この距離は、重力波の放出によってインスパイラルと合体を起こすには遠すぎるため、ファイナル・パーセク問題というパラドックスが生じる。
存在しないはず超大質量ブラックホールが、なぜ観測されているのだろう? 銀河の外から降着してくる物質の影響が過小評価されているのか。3つ以上のブラックホールによる合体が、観測されていないところで頻繁に起きているのか。そこかしこにある超大質量ブラックホール同士の連星が、今の技術で識別できないだけなのか。
答えは、観測技術の改良と科学の進歩、そして時間が教えてくれる。今はあらゆる可能性を捨てずに、この難問に向き合おう。そして、パラドックスを巧みに回避している宇宙の神秘を味わおう。
※本稿は2021年8月に公開された英文記事を、著者Ethan Siegel氏確認のもと翻訳したものである。


