宇宙

2025.12.04 16:15

あるはずのない超巨大ブラックホールが存在するパラドックス

ガスの豊富な現実的環境で、ふたつの超大質量ブラックホールが合体するシミュレーションを示した連続画像。両者の質量が十分大きければ、単独の事象としては宇宙全体で見ても最も活発なものになると考えられる。 ESA

銀河衝突のシミュレーション

ふたつの銀河が衝突合体するとき、それぞれの超大質量ブラックホールは一般的に次のような過程を経ることが明らかになっている。

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・銀河から飛び出しかねないほど非常に高速で動くようになる

・しかし、ガス、ちり、プラズマの中を突き進むと力学摩擦という「重力のブレーキ」がかかり、その動きが減速される

・加えて、重力相互作用により運動エネルギーを失い、周囲の物質を弾き飛ばしたり、より遠くの軌道に押しやったりしながら、互いの中心に向かって落ちていく

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・最終的には、軌道の内側から物質がなくなった状態で連星を形成する 

ここで大きな問題が浮上する。宇宙の年齢以内にインスパイラルと合体が起きるほどには、互いの距離が縮まらないのだ。

現在わかっている進化過程に基づいたシミュレーションでは、ほとんどが数パーセクの距離までは接近する。1パーセクは約3.26光年に相当する。最も遠くて10光年、ベストシナリオでは0.1光年程度の近さになるが、すでに述べた上限値である約0.01光年とはまだ大きな開きがある。

とはいえ、実際のところ、銀河の中心にあるブラックホールが連星のままとどまっている証拠はない。逆に、イベントホライズンテレスコープ(EHT)で直接的に観測された巨大楕円銀河M87でも、私たちの銀河系でも、中心核には単独の巨大ブラックホールが存在すると考えるのが妥当という観測結果が出ている。

それは超大質量ブラックホール同士が合体してできたはずであり、説明はいくつも考えられる。たとえば、銀河の合体は3つ以上で起きるのが普通だとすれば、小さいブラックホールの作用でふたつの大きいブラックホールが接近し、合体に至ることもあり得る。また、ガス、ちり、恒星もブラックホールとともに銀河の中心に落ち込むとしたら、それらが引き寄せる役割を果たし、やがて合体を起こす可能性がある。あるいは、ふたつのブラックホールはやはり合体せずに連星のままでいるのに、現在の望遠鏡では識別できないだけなのかもしれない。

近い将来、次世代型望遠鏡で観測した結果、そのような「合体しそうで合体できないブラックホール連星」がむしろ一般的だと判明することも十分あり得る。

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翻訳=門脇弘典/S.K.Y.パブリッシング 編集=石井節子

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