宇宙

2025.12.04 16:15

あるはずのない超巨大ブラックホールが存在するパラドックス

ガスの豊富な現実的環境で、ふたつの超大質量ブラックホールが合体するシミュレーションを示した連続画像。両者の質量が十分大きければ、単独の事象としては宇宙全体で見ても最も活発なものになると考えられる。 ESA

激しい緩和と三体問題

銀河の中心核にある超大質量ブラックホールは、太陽質量の数百万倍から数百億倍に達する。質量に応じて重力波の放出レートは高まり、事象の地平面は巨大化する。最大級のブラックホールでは、事象の地平面の大きさは太陽系全体に匹敵するほどだ。そんな超大質量ブラックホール同士が宇宙の年齢以内にインスパイラルと合体をすることができる距離は、最大でも約0.01光年が限度だという。これは、現在の地球・太陽間の距離の数千倍の長さにあたる。

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古い超大質量ブラックホールを示した図。1番目と2番目に古いものは名前が書かれている。最近記録を更新したJ0313-1806は、ビッグバンのわずか6億7000万年後に16億太陽質量にまで達した。  Feige Wang, presented at AAS237
古い超大質量ブラックホールを示した図。1番目と2番目に古いものは名前が書かれている。最近記録を更新したJ0313-1806は、ビッグバンのわずか6億7000万年後に16億太陽質量にまで達した。 Feige Wang, presented at AAS237

それほど狭い軌道で、ふたつの超大質量ブラックホールが互いのまわりを回ることが現実に起こるのだろうか?

科学的には、その可能性は低い。ふたつの超大質量ブラックホールが互いに接近するメカニズムを見れば、そう納得せざるを得ない。銀河が進化する過程で、内部では、超大質量ブラックホールが成長していく。考えられるシナリオはこうだ。まず、大質量星が形成され、進化の果てに爆発してブラックホールの種となる。ブラックホールの種は、銀河にあるほかの天体と相互作用し、軽い天体は弾き飛ばされ、重い天体は中心に向かって落ち込む。重い天体は互いに引き付け合って集積、成長、合体し、銀河の中心に見られる超大質量ブラックホールとなる。

その後、時間をかけて銀河同士が重力で互いに引き寄せられ、重力で束縛された銀河群や銀河団を形成し、ついには衝突合体する。しかしその際、中心同士が衝突することはきわめて稀で、ふたつの超大質量ブラックホールは衝突を回避する。ふつう、銀河と銀河が衝突しても、超大質量ブラックホールのあいだは数十光年から数万光年も離れている。

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それでも、元の銀河で超大質量ブラックホールが誕生、成長したときと同様のプロセスが、合体した新しい銀河の天体にも起こる。これは「激しい緩和」と呼ばれる。銀河同士が合体すると、ふたつの超大質量ブラックホールのあいだの空間には、ガス、ちり、恒星、コンパクト天体、電離プラズマ、ダークマターなどの物質が豊富に供給される。合体で大きくなった新しい銀河の重力で束縛されるのだ。

これらのブラックホールが銀河の中を動くと、まわりのあらゆるものと重力的な相互作用が発生する。重力で束縛された3つの天体の動きについて、現代の重力理論では厳密な解を求められない。これは「三体問題」として有名だが、多くの場合、ふたつの大きな質点とひとつの小さな質点とが相互作用する中で、小さな質点は弾き飛ばされ、大きな質点は互いに接近してより狭い軌道を回るようになることが知られている。

合体した銀河でも、激しい緩和と「力学摩擦」の作用により、ふたつの超大質量ブラックホールは、あいだにある物質を次々と弾き飛ばしながら互いの距離を縮めていく。文字どおり天文学的な時間がかかる銀河の進化過程をつぶさに観察することはできないので、シミュレーションによって解き明かしてみよう。 

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翻訳=門脇弘典/S.K.Y.パブリッシング 編集=石井節子

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