多重星系のメカニズム
太陽系のように、ひとつの星のまわりを惑星などの天体が回っている星系に属している星は、観測されている星全体の半分ほどしかない。残りの半分は、中心部の星がふたつ以上ある連星系や三重星系、まれにはそれ以上の多重星系に属している。その多くは質量が大きく異なる星の組になっているが、質量が同程度の星同士でできている星系の割合も大きい。質量は、星の運命を決定づける最も重要な要素だ。そのような連星系や多重星系をなす恒星のひとつがブラックホールや中性子星になると、残りの恒星も同じ運命をたどる可能性が高い。
ブラックホールに限らず、ふたつの天体が互いの周囲を回っていると、軌道の減衰という微小ながら重大な現象が起きる。これは、変化する重力場の中を天体が動くたびに、ごくわずかなエネルギーが重力波として放出され、徐々にエネルギーが失われるために起きる。重力で束縛された軌道は、長い年月のうちに減衰していき、ふたつの天体はらせんを描きながら衝突することになる。
太陽と地球のように、比較的小さく、十分に離れた質量同士でこの現象が起きるには、宇宙の年齢よりも遥かに長い時間がかかる。ビッグバンから138億年。これでも途方もない年月だが、重力波の放出によって地球軌道が減衰し、太陽に衝突するには約10の26乗年もの時間を要する。一方で、質量が大きく、距離が離れていない星系では、この時間は劇的に短くなる。
宇宙にある多くの星は、かなり狭い軌道を回っており、これは観測例の多くない高質量連星系の大部分にも当てはまる。それらの星系に基づいた推定によると、少なくともLIGOなどの地上重力波望遠鏡で検知可能な種類のブラックホールに関しては、中性子星同士、ブラックホール同士、あるいはブラックホールと中性子星の合体が現在高確率で観測されているとおり、十分な近距離で高質量連星が生まれる割合が大きいと考えられている。
もっと大きなブラックホールの場合も、同じ物理法則が成り立つ。ある質量によって生じる、変化する重力場を別の大きな質量が動くと、重力波を放出してエネルギーを失い、軌道は減衰する。ふたつの質量がより大きく、より近接しているほど、軌道の減衰速度は高くなると考えられる。このように軌道が減衰していき、インスパイラル(らせん状の接近)を経て合体する例は、約100太陽質量以下の恒星質量ブラックホールでは多数存在する。しかし、銀河の中心を占める超大質量ブラックホールでは、状況はずっと複雑になる。


