銀行は追いつけるか?
この変化は、銀行に今後の戦略的判断を迫るものとなっている。つまり、Circle(サークル)やTether(テザー)といった既存のステーブルコイン発行者と競い合うのか、それとも既存のステーブルコインを自社の金融サービスに統合するのかを決断する必要がある。
Visaの報告によると、ステーブルコインの取引量は、ここ1年で58%増加し、取引件数も2024年8月までの1年間で35%増となっていた。また、こうした取引の大半は中央集権型の暗号資産取引所で行われており、取引ボリュームの41%、取引件数の24%を占めていた。
また、ステーブルコインはすでに分散型金融(DeFi)や国際送金、機関投資家による流動性運用などに深く組み込まれている。
GENIUS法が求める透明性や準備資産の監査、連邦登録などの要件は、銀行にとって信頼性とコンプライアンス面で競争力を発揮する好機を与えることになる。これらは伝統的金融機関がすでに強みを持つ領域だ。
しかし、課題はこの分野への参入のタイミングだ。フィンテック企業や暗号資産ネイティブの企業はすでに動き出しており、グローバルな取引所やウォレットプロバイダー、決済事業者と連携を進めている。銀行が製品の立ち上げを先延ばしにすればするほど、ネットワーク効果によって他のプレイヤーに市場を囲い込まれるリスクが高まる。
銀行が直面する疑問
GENIUS法が成立したとはいえ、すべての疑問が解消されたわけではない。銀行は依然として、暗号資産がどのように課税されるのか、カストディ業務(資産の保管サービス)がどのように規制されるのかという疑問を抱えている。そして自らが発行するステーブルコインが、連邦準備制度(FRB)や諸外国によって導入される可能性のある中央銀行デジタル通貨(CBDC。デジタルドルとも)とどう関係するのかといった点でも不透明な状況に直面している。
とはいえ、政治情勢には大きな変化が見られる。トランプ大統領はGENIUS法を「米国を世界の暗号資産の中心地にする」手段として強く推進し、暗号資産の規制をめぐる超党派の協力も進展しているように見える。
銀行は今こそ動くべき
GENIUS法は、米国におけるデジタル資産政策の画期的な転換点となり、銀行がステーブルコイン市場の競争に参入するための新たな機会をもたらしている。さらに、規制の不透明感の解消に加えて超党派の支持が議会で広がるなか、JPモルガン、バンク・オブ・アメリカ、シティグループなどの大手が、自社サービスに暗号資産関連商品をどのように組み込むかを模索し始めている。
こうした取り組みが十分な成果につながるかは、まだわからない。しかし、議員たちのメッセージは明確だ。GENIUS法の時代が始まるなかで、迅速に動く金融機関が大きなアドバンテージを得る可能性がある。


