ドナルド・トランプは、かつては海外におけるディールで大きな利益を上げていなかった。だが再び政権を掌握すると、利益相反の懸念に配慮しているという建前をあっさり捨てた。
政権復帰と共に、180度の方針転換
トランプが2期目の大統領として就任してから10日後の1月30日、彼と関係のある企業がデラウェア州に2つの法人を設立した。「DTマークス・アブダビLLC」と「DTマークス・アブダビ・メンバーCorp」と呼ばれるこの2社の社名は、彼のポートフォリオに含まれる30以上のライセンス企業と同様に、トランプの頭文字と「マークス」という地名を組み合わせる命名規則をとっている。
トランプ・オーガニゼーションは、アラブ首長国連邦の首都アブダビでの事業についてまだ発表していないが、これも時間の問題だ。昨年秋以降、トランプは矢継ぎ早に事業を打ち出し、わずか10カ月で新規プロジェクトを8件発表した。
これを受けトランプの海外ライセンス収入は、2023年の推定600万ドル(約8.8億円。1ドル=147円換算)から、昨年には5000万ドル(約73.5億円)近くに急増した。さらに新たなビジネスも予定されており、登記記録によれば、アブダビ、セルビア、ハンガリーで未発表のディールが少なくとも3件進行中だ。
これらはすべて、大統領としての姿勢の大転換を示している。1期目の政権でトランプは、資産の所有権を維持しながらも、それらを信託に入れ、海外での新規事業は行わないと約束していた。2016年の選挙後の6年間で彼が加えた新規事業は1件のみで、オマーンのゴルフ開発にブランド名を供与しただけだった。
ビジネスが優先、外交の私物化
だが現在のトランプは、何の躊躇もなく政治から利益を得ており、国内では暗号資産関連法に署名し、それによって数千万ドル(数十億円)を得たと見られ、国外でも目もくらむようなスピードでライセンス帝国を拡大している。利益相反の構図はこれまでになく露骨になり、しかも、これまで以上に見過ごされている。
たとえばトランプの海外訪問は、大統領としての公務であると同時に、個人的なビジネス目的の渡航のように見える。7月25日に英スコットランドを訪問した際、自身がゴルフリゾートを所有する2つの町を訪れた。
政権に復帰後のトランプのこれまでの外遊は、ローマ教皇フランシスコの葬儀への参列と、いくつかの義務的な首脳会議を除けば、5月の中東3カ国の歴訪のみだった。この際に最初に向かったのは、サウジアラビアのリヤドだ。ここには巨大開発業者ダル・アル・アルカンが拠点を置いており、その関連会社が多数の新契約をトランプと結んでいる。次に向かったのはカタールのドーハで、同市郊外にトランプのゴルフコミュニティが間もなく誕生する。そして最後に彼はアブダビへと飛んだ。
「この大統領は、政府の倫理規定の概念を完全に破壊した」
こうした一連の動きは、トランプ政権の1期目で倫理局トップを務めたウォルター・シャウブのような人物にとっては、目まいがするようなものだ。シャウブは、大統領の公務と事業の利益相反を批判し続けた末の2017年に辞任した。現在のトランプの行動は、1期目の時よりも「はるかにひどい」とシャウブは述べている。「この大統領は、政府の倫理規定の概念を完全に破壊した」と彼は語る。「これはもはや政府倫理の真逆とでもいうべき状態だ。つまり、我々が腐敗と呼ぶべきものだ」。



