サイエンス

2025.07.29 08:15

自己肯定感が低いと運動まで影響か 日本人特有の認知バイアス

Getty Images

Getty Images

運動において、どの国のどんな文化の人たちも、同じように練習すれば同じような成果が表れるものだと思われてきた。ところが、早稲田大学の実験により、文化に根ざす認知のゆがみが運動成績に影響することがわかった。

人の運動学習には、意識的に制御可能なプロセスと無意識に進行するプロセスとがあるが、それらは文化に依存することなく普遍的だと考えられてきた。運動学習の効果に文化は関係ないということだ。本当にそうなのか。早稲田大学データ科学センターの山田千晴講師、慶應義塾大学文学部の板口典弘准教授、UiTノルウェー北極大学のクラウディア・ロドリゲス=アランダ教授からなる研究チームは、日本人とノルウェー人の学生を使って実験を行った。

参加者の言語報告と運動誤差に基づいて潜在学習の量を推定。
参加者の言語報告と運動誤差に基づいて潜在学習の量を推定。

行ったのは「視覚運動順応課題」と呼ばれるものだ。画面に数字が書かれていて、マウスのカーソルを狙った数字に合わせるというもの。ただし、マウスの動きは45度ずれている。学生たちにはそのことは告げていない。学生には、毎回「何番を狙う」と口頭で宣言したうえで課題を実行してもらう。運動成績は、宣言した番号と実際にカーソルが到達した番号との角度の差から判断する。

普通は、何度かやっているうちに自然に体が慣れてきて、つまり視覚運動順応して命中精度が上がっていく。これを「潜在学習」と言う。また、何番を狙うと決めてから挑戦することを「意識的戦略」と言う。実験の結果、日本人もノルウェー人も、潜在学習の運動成績に大きな差は見られなかった。ところが、意識的戦略では日本人学生は試行の段階で戦略を変更することが多く、変更の度合いも大きいことが明らかになった。見事カーソルが目標に命中したあとも、戦略を変更する日本人の割合が多かった。

上段はノルウェー人学生。中段が日本人学生。縦軸が精度で横軸が回数。潜在学習の成果は同じような曲線を描いているが、日本人はばらつきが多く、迷いが感じられる。
上段はノルウェー人学生。中段が日本人学生。縦軸が精度で横軸が回数。潜在学習の成果は同じような曲線を描いているが、日本人はばらつきが多く、迷いが感じられる。

そこには「意思決定に対する自信が低く、到達運動の成功を自身の戦略に帰属させにくい」という日本文化特有の認知バイアスが働いていると研究チームは指摘する。文化、というか社会の暗黙の規範や価値観が認知プロセスに関与する、いわば「思考のクセ」が運動の戦略の立て方に影響を与えてしまうことが示唆された結果だ。

思わぬところに、自己肯定感が低い日本人の悲しい認知のゆがみが表れてしまったわけだが、この結果は今後の研究をとおして「スポーツ教育や運動障害を抱える方のリハビリといった実践の現場における、よりよい介入法の提案につなげられるのではないかと」と研究チームは期待感を示している。

プレスリリース

文 = 金井哲夫

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事