地域を巻き込んでデジタルノマドの誘致や、移住者・起業家の獲得に成功した代表的な事例が、ポルトガル・マデイラ島ポンタ・ド・ソルのコミュニティだ。このプロジェクトを牽引したのが、リスボン出身の起業家ゴンサロ・ホール(Gonçalo Hall)である。
行政に直接政策提言を行い、無料のコワーキングスペースを開設させ、レストランや宿泊施設に働きかけてベジタリアン/ヴィーガンメニューの導入や、宿のキッチン整備を促すなど、受け入れ体制を強化した。また、ファシリテーターがノマドと地域社会の橋渡しを担い、スラックやワッツアップを活用してコミュニティ同士のつながりも促進。お互いが情報を共有し、助け合うといったクラウドソース型の“コンシェルジュ機能”が自然発生的に広がっていった。
「場所のマーケティングよりも、コミュニティ作りを重視してきた」というホール。自分のリンクトイン投稿やカンファレンス登壇を通じて認知を広げ、開始から6カ月で2000人のノマドを誘致した。チャンスを見逃したくない、自分もコミュニティの輪に入って一緒に楽しみたいといったデジタルノマドのFOMO心理をつかんだことが成功につながった。
現在は各国政府に対するアドバイザーや、世界各地に散らばるノマドコミュニティの活性化・相互ネットワーク構築のための支援を行うホールは、デジタルノマド界隈では名の知れたリーダー的な存在の一人。その彼が再三主張するのが「デジタルノマドは場所ではなく、コミュニティ間を移動する」という点である。
ホールは日本のデジタルノマド受け入れ環境の現状についても、「コミュニティが欠けている」と語る。日本に行きたい人、日本が好きな人は山ほどいるが、安定した継続的なコミュニティがないとデジタルノマドの再訪には繋がらないと指摘。地域の起業家コミュニティなどがあっても、言語の壁により「日本人/日本語コミュニティ」に留まってしまっている可能性もある。訪問先として定番化させるためには、短期的なプログラム以上の取り組みが求められる。


