多種多様なデジタルノマドが集まる「寛容なコミュニティ」
パレスチナ人に限らず、なぜわざわざバンスコに人々がやってくるのか。スキーリゾート地としてのホスピタリティのインフラは整備されているものの、デジタルノマドに人気があるバルセロナやリスボンといった賑わいある街とは程遠く、バンスコは首都ソフィアから約150キロ離れた不便な場所にある田舎だ。参加者を惹きつけているのは、多様で寛容なコミュニティに他ならない。
「強いパスポート保持者」に偏りがあるものの、参加者の国籍は多様で、年齢層もZ世代後半からベビーブーマー世代までと幅広い。カジュアルな服装で盛り上がる姿は若者の集まりのように見えるかもしれないが、実際には経験豊富な30〜40代も多い。起業家、フリーランスとして活動するコンテンツクリエイターやマーケターが目立つが、リモートワークを行う会社員もいる。
カンファレンスから得られる学びも大きいが、BNF最大の価値はネットワーキングにある。異なるバックグラウンドを持つ参加者に共通するのが「誰かとつながりたい」という強い想い。ノマドたちが場所選びの参考に活用する都市情報プラットフォーム「ノマドリスト」のデータによれば、デジタルノマドの67%が独身で、恋愛よりも友人や旅仲間との出会いを重視しているという。BNFの参加者も、こうしたプライベートの出会い、そしてビジネスチャンスや起業のきっかけを求めて集まってきている。
会場の一つである地域の公園には、デジタルノマドのためのメディア、保険、旅行商品やコリビング・プログラムを提供する企業の出展ブースが立ち並び、周りでは起業家やクリエイターが自由に対話を交わす「サロン」が形成されていた。
10年以上にわたり世界を旅してきた経験豊富なリピーターから、ノマドライフを始めたばかりの初心者まで、さまざまな層がお互いに関心を持ち、助け合う。カンファレンスというと登壇者と参加者の関係が一方通行で、十分なコミュニケーションが取れないことも多いが、BNFでは多くの登壇者がイベントの全期間中滞在し、他の参加者とも交流を深める。
BNFの代表ディレクターを務める前述のメッテは、ノマドの多様なニーズに応えたコンテンツや、年齢や立場を超えた参加者同士のフラットな関係性がBNFの特徴だと説明する。それぞれが自分の居場所を見出すことができる環境が整っている、と言い換えられる。
マデイラ島の成功事例にみる、コミュニティの価値
BNFで何度も耳にした「コミュニティ」というキーワード。日本の観光庁・ワーケーション普及推進事業が手がけた82ページにわたる『国際的なリモートワーカー(デジタルノマド)に 関する調査報告書(2025年5月)』の中でも、この単語は99回出現する。同書の46ページで示されているように、コミュニティとは仲間とのつながりや相互サポートを意味し、その中核にはデジタルノマド自身の他に、コワーキングスペース、地域社会、スタートアップ企業(群)といったアクターが存在する。


