デジタルノマドと呼ばれる人々は今、何を求め、どこへ向かおうとしているのか。なぜ旅を続けるのか。その答えを探るべく、6月末、世界最大のデジタルノマド向けイベント「バンスコ・ノマド・フェス(Bansko Nomad Fest、以下BNF)」を訪れた。
BNFは、ブルガリア南西部に位置するスキーリゾート地バンスコに、世界中のデジタルノマド700人以上が集い、1週間にわたって交流を深めるネットワーキング重視の年次カンファレンスだ。過去10年で、200回も国を変え、地球23周分の距離を旅してきた筆者だが、この“お祭り”への参加は初めて。本稿ではイベントの様子とともに、日本政府や旅行関係者も注目するデジタルノマドに関する業界動向を紐解く。
世界最大のデジタルノマド・ミートアップ
BNFは、学びと情報交換、出会いと交流、そしてウエルネスの要素を融合させたイベントだ。1週間にわたる開催期間中、午前は選ばれた登壇者によるプレゼンテーションや座談会を中心としたカンファレンス型プログラム、午後は参加者や企業が自由に議題を設定し対話を深めるアンカンファレンスという、2つの異なる形式で構成されている。
さらに、毎日朝と夕方にはヨガや瞑想、フィットネスといったウエルネスクラスが行われ、夜はネットワーキングを目的とした少人数の夕食会、大型の温泉スパリゾート施設などを会場にしたパーティーも開催される。いずれも参加は自由で、スケジュールや告知、チケットは専用アプリで一元管理される。ほぼ全てのプログラムにアクセスできるチケットの価格は、400ユーロ(約68000円)前後となっている。
BNFはもともと、ドイツ人起業家マティアス・ツァイトラー(Matthias Zeitler)がバンスコで立ち上げたコワーキングスペースのメンバーのために始めた小規模なイベントだった。それが今では、デジタルノマドとノマド支援企業が集まる世界最大のミートアップイベントへと成長を遂げている。
数年前、ツァイトラーが運営から退いた後は、ホルガー・メッテ(Holger Mette)をはじめとする7人のコミュニティメンバーが事業を引き継ぎ、現在、イベントは少数の運営チームと多くのボランティアによって支えられている。
なかでも特筆すべきなのが、トルコとエジプトを経由し、パレスチナから参加していたボランティアグループ「ホームアウェー(Home Awe)」の存在だ。彼らはBNFのためだけにブルガリアへと入国し、イベント終了後には再び母国に戻る。彼らにとってBNFでの学びや多彩な“旅人”との出会いは、困難な環境のなかで狭まった視野を広げ、旅に出ることや大きな夢を描くきっかけとなるのだという。



