かつて、日本はAIBOやASIMOなどを開発した「ロボット大国」として世界に君臨していた。しかし、昨年には米国防総省高等研究計画局(DARPA)主催のロボット競技会で優勝した東京大学発のロボット開発企業シャフトがグーグルに買収されるなど、潮目が変わりつつある。
日本はこのまま、ロボット開発で世界から取り残されてしまうのか―。
まだ日本の企業がロボットに夢中だったころの、1990年4月の記事をご紹介しよう。
(中略)もともと、ロボットはアメリカで発明された。いまアメリカは、脳外科手術用や、水中で索敵殲滅を行う海軍用ロボットといった先端的な研究では、世界をリードしている。しかし、ロボットを工場や日常生活の中で実際的な問題解決に使うとなると、日本の右に出る国はない。(中略)
なぜ、日本人はこれほどロボット好きなのか。それには経済学を超えた理由がある。(中略)日本では、人懐っこくて平和を愛するロボットが、労働者不足の解決策と見られている。加えて、ロボットはすでに単なる労働者の代用品ではなくなっている。作業によっては人間よりうまくできるのだ。
(中略)アメリカの企業が日本の企業ほど熱心にロボットメーカーに要望を突きつけないのは、営業マンや会計士出身の経営者が多いためでもある。メーカーの技術者にあまり敬意を払わないアメリカとは違い、日本ではメーカーの技術者が経営者となる例も多い。ホンダの本田宗一郎やソニーの盛田昭夫がその代表格だ。
アメリカではヘンリー・フォードや、著名な発明家のチャールズ・ケタリングの時代から、メーカーの技術者出身の経営トップはほとんどいない。日本人は技術者を称えるが、アメリカ人は起業家や発明家をもてはやすのだ。
日本企業は投資の回収が比較的長期間になることを容認してきた。投資に対するリターンが「日本で一般的な20%ではなく、アメリカで標準的な30%を求められたら、ロボットへの投資は半減するだろう」と、ペンシルベニア大学のエドウィン・マンスフィールド教授は指摘する。
ただ、日本人はもっと単純な比較を好む。工業用ロボットのコストは平均4万ドルと、日産の工場で働く熟練労働者の年収とほぼ等しい。ロボットのコストは下がるが、労働者の賃金は上がっていく。いまロボットに投資しておけば、10年後のコストを節減できるのだ。
いずれはアメリカでもロボットが復活するだろう。ロボットに複雑な仕事をさせようとして断念した企業が再びロボットを導入し、より単純な仕事をさせるようになっている。
それでも、アメリカにロボットが普及するのは長く、遅々とした歩みになるだろう。
「基本的に何も進んでいません」と、カーネギーメロン大学のデビッド・パノス教授はぼやく。
「これまでにも何度も聞いた話ですよ。アメリカ人は目先しか見ず、日本人は遠い先を見ているんです」
それにロボットに仕事を奪われるとなれば、強い影響力を持つ労働組合も当然、黙ってはいないだろう。アメリカが開発し、日本がその果実を得る。ロボット技術もそんなおなじみの経過をたどりつつあるようだ。