ストックホルムを拠点とするスタートアップ、Lovable(ラバブル)は、プログラミング経験のない何百万人もの人々が、人工知能(AI)を用いて自分のアイデアを即座にウェブサイトやアプリ、オンラインの副業に変えられる「バイブコーディング」ツールを開発した。同社の年換算売上高は、創業からわずか8カ月で1億ドル(約147億円。1ドル=147円換算)を突破した。
AIがコーディングの壁を破壊する
Lovableの利用者、オスカル・ムンク・アフ・ローセンスホルドは、もともとショービジネスの世界に関わるつもりは一切なかった。しかし、彼はある日、スウェーデンのストックホルムでのフィーカ(北欧のコーヒーブレイク)の席で、映画プロデューサーの友人からスタートアップのアイデアを持ちかけられた。それは、資金調達に苦戦するヨーロッパの映画製作者たちに向けて、投資家とマッチングするマーケットプレイスを作ろうという提案だった。
こうしたアイデアの多くは、話だけで終わる。しかし、その数カ月後にムンク・アフ・ローセンスホルドはFrameSageと呼ばれるサービスを立ち上げて、間もなく5万ドル(約735万円)を売り上げた。彼は、AIコーディングツール「Lovable」を用いて、10日でサービスの基盤を構築したという。
「ソフトウェアを作るための魔法のツールを手に入れたような気分だ」と語るムンク・アフ・ローセンスホルドは、日中は製薬会社でプロジェクトマネージャーとして勤務し、学校で習った以外には一切コーディングの経験がなかった。「このツールは、開発者を雇うコストで数万ドル(数百万円)、開発期間で約4カ月の節約につながった」と彼は語る。
スウェーデンが生んだ新たなユニコーン企業Lovableは、他にも数多くの若手起業家たちを魅了している。今年6月のみで、75万件近いプロジェクト(アプリ、ウェブサイト、ビジネス全体を含む)が、いくつかの説明文の入力と数回のクリックだけでLovable上に構築され、公開された。同社のツールは、往年のウェブサイトビルダーのような個人サイトを大量に生み出すだけのものではく、動かないスケッチやワイヤーフレームを作るものでもない。
Lovableで作られるプロジェクトは、生成AIによってわずか数分で立ち上がる「実際に動くプロダクト」だ。また、ニュースレターの配信からStripeによる決済まで、さまざまな機能を備えている。
史上最速で成長したソフトウェアスタートアップ
「Lovableを見た瞬間、これから数年使い続けると確信した」と語るのは、スウェーデンのマルメ在住のジャリール・マイルズだ。彼は、自分のレストラン運営支援のスタートアップ「Quicktables」のサイトをLovableでわずか2カ月で立ち上げて、5月以降にそのサイト経由で12万ドル(約1764万円)を超える売上を上げている。
Lovableは、史上最速で成長したソフトウェアスタートアップとなり、2023年11月のローンチからわずか8カ月で年換算のサブスクリプション収益が1億ドル(約147億円)に到達した。このスピードは、同じ指標に18カ月で到達したイスラエルのクラウドセキュリティ企業Wizや、2年で到達したサンフランシスコのHR(人的資源)プラットフォームのDeelを上回っている。
「人間は本質的にモノづくりのための資質を備えているが、従来のソフトウェアの構築は、コードを書ける人か資金にアクセスできる人の特権だった。今、私たちは新しい時代に突入している」と、2023年9月にLovableを共同創業しCEOを務めるアントン・オシカ(34)は指摘した。
Lovableを使っているのは野心的な若い起業家のみではない。たとえば、ブラジルのリオデジャネイロに拠点を置くQConcursosだ。同社は、大学入試や公務員試験の受験生を支援する200人のチームを抱えている。QConcursosのカイオ・モレッティCEOによると、Lovableを使ってわずか2週間で新たな有料版アプリを構築し、48時間で約300万ドル(約4.4億円)の売上を達成したという。「従来のレガシープラットフォームで開発していたら、1年かかっていたはずだ」と彼は語る。



