美術や演劇、ダンスなどといった分野の芸術家が、いつも住んでいる場所から離れて、新しい環境で創作活動をすることを「アーティスト・イン・レジデンス(Artist in Residence)」という。
ヨーロッパが発祥だが、このような活動が登録できるウェブ上のデータベースを見ると、世界全体だと1831件、国内では110件の活動拠点が確認できる。
3年前の2022年4月、アーティスト・イン・レジデンスの拠点が神戸にも誕生した。異人館が建ち並ぶ観光地である北野地区にあり、築62年という外国人向けアパートの2階と3階、約220平方メートルという規模で、2つのリビングルーム&キッチンと5つのベッドルームが備わっている。
「AiRK(アーク、Artist in Residence KOBE)」と名付けられたこの滞在型拠点の開設を提案したのは、神戸出身の俳優でダンサーの森山未來。ダンサーとして海外でも活動するなかで、10年以上前からアーティスト・イン・レジデンスの良さを認識していた。
国内でこのような文化活動の振興をするのであれば、自治体や大企業が主導することが多い。だが、AiRKは民間主導で運営されているのが大きな特徴だ。そこで、事実上の住み込み管理人をしている松下麻理に、この場所で何が起きているのか聞いてみた。
月1回のペースで「小さな奇跡」が
松下が開口一番で発したのは「カオスです」のひと言だった。というのも、2025年3月までの1年間に滞在した32組のうち、日本人だけのグループは11組で、残る21組は外国人だけか外国人を含んでいたのだ。
分野としては、現代アートのグループが最も多いのだが、ダンスや演劇はもちろん、珍しいところでは料理人や建築家、傘職人までと幅広い。また、それぞれの滞在期間は1カ月から3カ月がほとんどだという。
AiRKではベッドルームは個室に分かれているが、リビングルームは共有だ。朝食と夕食のときはもちろん、時折、開かれるパーティになると、何語で何を話題に話すのか、その瞬間までわからない。松下が「カオス」と表現するのもよく理解できる。
この「カオス」が、作品などを制作するうえでのインスピレーションにつながる。ところがそれだけではない。というのは、何もなければ絶対に成立しないはずの新しいコラボ、松下に言わせると「小さな奇跡」が、月に1回ほどのペースで起きているのだ。



