この予算法案にはNASAだけでなく、NSF(国立科学財団)、DOE(エネルギー省)、NOAA(海洋大気局)、EPA(環境保護庁)なども含まれ、その拠点は全米にわたる。そして予算案を採決する議員たちは、それらに関わる地元産業や雇用を守る責務を担う。特に上院の商業委員会の議長であるテッド・クルーズ氏(共和党)は宇宙産業界に精通し、彼の地元であるテキサス州には宇宙関連事業体の拠点が複数ある。そのため彼らにとってトランプの予算案は、到底受け入れられるものではなかった。
ただし、上下両院が決定したこの予算法案は、最終的に大統領がサインすることで初めて施行される。もしトランプがこの連邦予算案、または継続決議に署名しなければ、米国の会計年度がはじまる10月1日までに予算が成立せず、NASAをはじめとした連邦政府の非必須機能が停止する可能性がある。
またトランプは、政権の予算削減案が通るものとして、NASAの複数の計画を終了する手続きを開始するよう、すでにNASA上層部に通達しており、幹部職員2000名以上の解雇も始まっている。また7月9日には、このコストカットの実行役として、運輸長官のショーン・ダフィー氏にNASAの暫定長官を兼任させることを発表した。
トランプ政権のこうした動向に対しても議会は対抗措置を取り、下院の科学宇宙技術委員会(CSST)は7月17日、以下の内容の書簡をダフィー氏に送って警告した。
「我が国の憲法制度においては議会が財政権を握っている。議会はNASAの年間予算を策定し、NASAが実施すべき政策を定めている。これは要請ではなく法律である。しかし、昨今のNASA高官の発言は、この議会の権限を無視し、議会が割り当てたNASAの資金を差し押さえようとしている。これは極端で過激なイデオロギーに思える」
「トランプ政権が提案した次年度予算案はNASAの現状からまったく乖離したもので、大量解雇、多数の計画の終了、重要施設の閉鎖は、NASAに壊滅的な状況をもたらす可能性がある。にもかかわらず、それらがまったく考慮されていない。こうした決定は間違っており、あなた方が決めるべきものではない。ただちに停止すべきだ」
トランプと米議会の攻防戦はあと数カ月続くだろう。議会が投げたボールはいま、トランプとダフィー氏にある。これに対して2人がどのように振る舞うかが注目される。


