どこまで高みに上れるのか
すでに一生遊んで暮らせる運用益を得た男が、なぜ今さら投資助言を行うのか。そう問うと井村はこう答えた。
「野球の大谷翔平選手に『なぜまだバットを振るのか』と聞くようなもの。好きだからに決まってます。世界一の選手を引き合いに出すのはおこがましいですが、どこまで高みに上れるのか挑戦したいという気持ちは変わらない」
ただ、投資を究めるなら個人投資家として挑戦を続けてもよかったはずだ。
「投資は孤独です。株の発行体の企業は実社会で顧客に価値提供していますよね。それに憧れを感じているのです。Kaihouのミッションは『ニッポンの家計に貢献する』。自分のお金だけでなく、国民のみなさんのお金が増えて喜んでもらえたら、自分もうれしい。それをモチベーションのひとつにしないと、生きている意味を見失う気がした」
死生観まで踏み込んで語る井村とは対照的に、竹入は現実的である。
「私も個人投資家の時期を経験しましたが、機関投資家だからアクセスできる情報がたくさんある。独りよがりの分析に陥らないように、この世界の入場券はキープしたかった」
ふたりが当初考えていたのは投資運用業で、実際に登録を目指して会社も設立していた。しかし、運用のプロだけでは組織が成り立たない。井村が管理系を担当しようとしたが、運用に時間を割けなくなれば本末転倒。いったん会社をたたみ、コンパクトにスタートできる投資助言業にピボットしてKaihouを立ち上げた。
投資助言業なら、ファンドの運用・販売は投資運用業登録の会社に任せなければいけない。いったんは大手に決まりかけたが、ふたりが土壇場で契約したのは、21年設立の独立系運用会社fundnoteだった。
24年に未上場株の公募投信組み入れが可能になる規制緩和が行われたが、いち早く反応した運用会社のひとつがfundnoteである。同年11月には未上場企業に直接投資を行う「IPOクロスオーバーファンド」を新規設定。新興らしいスピード感をもっている。
同社取締役CIOの川合直也はアプローチの経緯を次のように明かす。「井村さんからファンドをやりたいという話を聞き、3年前から口説いていました。ただ、当時はまだ私たちが投資運用業のライセンスを取得できていなかった。登録は24年。Kaihouが大手と話を進めているという情報は聞いていたので、ダメモトで最後に話をしにいったら一緒にやってくれることになりました」


