食&酒

2025.07.24 11:45

ブームのマーラータンにみる「ガチ中華」ローカライズの新たな可能性

「紀ノ国屋」がマーラータンを独自に商品化した「7種具材の麻辣湯(春雨スープ)」

「紀ノ国屋」がマーラータンを独自に商品化した「7種具材の麻辣湯(春雨スープ)」

6月1日、高級スーパーマーケットチェーンの「紀ノ国屋」が、いま若い女性にブームのマーラータンを独自に商品化した「7種具材の麻辣湯(春雨スープ)」を期間限定で発売した。「忙しい大人の健康をサポートする一杯」として開発され、レンジでチンすれば簡単に食べられる中食だ。

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「7種具材の麻辣湯(春雨スープ)」はレンジでチンして簡単に食べられる
「7種具材の麻辣湯(春雨スープ)」はレンジでチンして簡単に食べられる

開発に加わった激辛料理専門家でフードアナリストの金成姫さんによれば「実際に四川を訪ねて本場の味を知っている紀ノ国屋の商品開発のシェフが、客層をふまえ、本場のトウガラシや山椒をガツンと利かせた激辛ではなく、程よい旨辛に仕上げ、栄養も考えた」商品なのだという。金さんはこれで「日本のマーラータンブームがさらに盛り上がると嬉しい」とも語る。

また監修にあたった一般社団法人「大人のダイエット研究所」の代表で管理栄養士の岸村康代さんも「今回使用しているハナビラタケは、いま注目のビタミンDが豊富。骨粗しょう症予防など、さまざまな健康効果が期待されています。1日に必要な野菜摂取量の3分の1が摂れ、1杯293キロカロリーと低カロリーなのも特長」と話す。

当の紀ノ国屋の商品開発担当者は商品の狙いについて次のように語る。

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「紀ノ国屋は、ご年配の方に多く支持されていることから、味の三位一体をベースに、ただ辛いだけではなく、旨みを感じ、味のバランスが良くなるよう調整しました。最近はエキナカ店舗を利用する若い人も増えていますので、購買意欲のわくような開発を心がけています。ただランチ需要が多く、実際に働いている人の『就業時間中に激辛は食べたくない、汗をかきたくない』との声も参考にしました」

汁だくのマーラータンには違和感

このように、昨今、マーラータンの商品化の動きがにぎやかだ。筆者の主宰するガチ中華を愛好するコミュニティ「東京ディープチャイナ研究会(TDC)」のSNSでも、新商品情報が日々投稿されている。

今年4月に「セブンイレブン」が開催した「世界ごはん万博」では、中国やベトナム、ハワイの料理が3週にわたって登場したが、その第一弾が「麻辣湯麺」だった。

これについてTDCの投稿者は次のようにコメントしている。

<セブンイレブンの麻辣湯麺を試してみたのですが、その辛さに驚きました。辛さもそうですが、コンビニ飯としては麻(マー)の痺れがすごいです。そして麺ですが、ヒラヒラした韓国経由の春雨のタンミョン風の食感とピャンピャン麺のような太ささのインパクトは気に入りました>

セブンイレブンはすでに4年ほど前の2021年11月に1人用の「麻辣火鍋」(いまで言えばマーラータン)を発売していたことが、TDCのSNSの検索でわかった。「1/2日分の野菜、シビれる辛さ」との触れ込みで、その頃からすでに少しずつ中食としてガチ中華仕込みの麻辣グルメが商品化され始めていたのだ。

2021年11月に「セブンイレブン」で販売された「麻辣火鍋」はいまで言うマーラータンだった
2021年11月に「セブンイレブン」で販売された「麻辣火鍋」はいまで言うマーラータンだった
「麻辣火鍋」の投稿者は<花椒の痺れと唐辛子の辛味がしっかり出ていました。八角やシナモンの香りもふんわり立ち上がって良い香り>とコメント(2021年11月当時)
「麻辣火鍋」の投稿者は<花椒の痺れと唐辛子の辛味がしっかり出ていました。八角やシナモンの香りもふんわり立ち上がって良い香り>とコメント(2021年11月当時)

とはいえ、こうした商品化についてTDCのコミュニティ内でも次のようにさまざまな意見がある。

<最近の日本のマーラータンを食べて思うのは、私が四川をはじめ、中国各地で食べたスープとは異なる。テレビで見るマーラータンは見事に汁だく。だから、薬膳春雨スープと紹介されるのだろうが、このような汁だくのマーラータンを見るたびに違和感を覚えてしまう>

この投稿者は四川省の成都に留学したことがある人だ。それだけに、現地のマーラータンをよく知っており、それがいま日本で提供されているものとは別物に見えてしまうというのだ。

筆者もそれに気づいていたので、前回のコラム「フランチャイズ店も続々オープン、マーラータンの人気は健康志向から」 で、フランチャイズチェーンと本場四川のマーラータンのスープの違いについて、次のように記していた。

「実は楊国福麻辣燙は黒龍江省発のチェーンで、スープが飲める。本場である四川省のマーラータンは火鍋スープと同様、辛さと油が強く、飲むことはない」

これは中国のマーラータンチェーン「楊国福麻辣燙」のマイルドな飲めるスープ
これは中国のマーラータンチェーン「楊国福麻辣燙」のマイルドな飲めるスープ
本場の四川風マーラータン。マニアな激辛好きでもなければ、スープを飲むことは想定していない(「ヤンチャンマーラータン」にて)
本場の四川風マーラータン。マニアな激辛好きでもなければ、スープを飲むことは想定していない(「ヤンチャンマーラータン」にて)
東京・高円寺にある「ヤンチャンマーラータン」の店内はカフェのような雰囲気だ
東京・高円寺にある「ヤンチャンマーラータン」の店内はカフェのような雰囲気だ
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文=中村正人 写真=東京ディープチャイナ研究会

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