食&酒

2025.07.24 11:45

ブームのマーラータンにみる「ガチ中華」ローカライズの新たな可能性

「紀ノ国屋」がマーラータンを独自に商品化した「7種具材の麻辣湯(春雨スープ)」

タピオカブームの再来か

では、こうした日本におけるマーラータンブームについて、飲食のプロはどう見ているのだろうか。

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TDCのメンバーで、飲食マネージメント会社で開発企画に従事している清水博丈さんは「つくり手側から見てマーラータンビジネスは魅力的」と指摘する。

なぜなら「スープ製作の技術さえあれば専門的な調理技術は問わない」「特別な厨房機材・食材を使用しない」「食材が欠品した場合でも代替品で賄える」「セルフのため従業員は最小人員」という、現代の飲食業界が抱える人手不足、属人化、設備投資費用の高騰、食品ロス、ロジスティクスの課題が一気に解消される魅力的なパッケージだからだ。さらに清水さんは続ける。

「ラーメン業界などでイメージされる3Kで男性メインの職場とは異なり、マーラータンの店はキッチンを含め、多くの若い女性スタッフの姿を目にする。カフェを思わせる店舗の明るくクリーンなイメージが求人獲得にも一役買っているのだろう」

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とはいえ、これまで何度もブームの波が来ては去っていったラーメン店の業態のように、マーラータンも一気に出店が加速した後、急速に淘汰されていくことも想像できる。よく例えられるのが、2018年頃からSNSでのインスタ映えをきっかけに若年層を中心に盛り上がりをみせたタピオカブームである。

今後の見通しとして、清水さんは「飲食スキルの浅い店舗や調理技術や運営が稚拙な店舗、立地に恵まれない店舗などが淘汰の波に飲まれ、最後に大手チェーンと地域一番店が勝ち組となっていくパターン」が考えられるという。

ただ清水さんは「ブームの影響はデメリットばかりではない」とも言う。

「参入のすそ野が広がることにより、味やシステムの多様化が進み、今後はこれまでにない味やシステムが登場してくると思われる。たとえば、京野菜を使った高級志向のマーラータン、フレンチシェフが手がけるマーラータンなどだ。最近流行の油そばを想起させる、汁なしマーラータンの麻辣香鍋(マーラーシャングォ)への着目など、いずれにしてもブームの終焉により廃れることなく、日本の食文化に定着していくのではないだろうか」

マーラータンにみるガチ中華のローカライズは、ある意味、当たり前の現象だといえるかもしれない。そこにもガチ中華の新しさや可能性があるのだと筆者は考えている。

文=中村正人 写真=東京ディープチャイナ研究会

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