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2025.07.25 10:30

AI企業の「クローラーのタダ乗り」に壁、Cloudflareの課金制度にウェブが揺れる

Photo illustration by Cheng Xin/Getty Images

Cloudflareによる新方針のメリット

Cloudflareが導入した新システムには、明確なメリットがある。

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第1に、クリエイターに主導権が戻る。「拒否がデフォルト」となったおかげで、パワーバランスが大きく変わる。もはや、robots.txtの書き方を調べたり、正体不明のボット名を突き止めたりする必要はなく、Cloudflareがそれらを自動で代行する。

第2に、待望の収益化の道が開かれる。これまではコンテンツが無償で利用されるのをただ見ているしかなかったが、利用条件や価格を自ら設定できるようになる。

第3に、透明性が促進される。サイト運営者は、誰がどのくらいの頻度で、何の目的でクロールしているのかを確認できる。

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第4は、AI開発者に対してデータを尊重する意識を促す効果がある。アクセスに対価が発生すれば、AI企業は品質・ライセンス・同意といった要素を優先し始めるかもしれない。

それでも残る「課題」

この仕組みにはいくつかの課題がある。まず、現時点ではすべてのコンテンツが一律料金だという点だ。1行だけのランディングページも、調査報道や高度なホワイトペーパーも、クローリングにかかる料金は同じだ。実際の価値に応じた、より洗練された料金モデルが今後は求められるだろう。

Cloudflareによる仕組みに従わないAI企業の存在も課題だ。すべてのAI企業が、Cloudflareの新システムを誠実に受け入れるとは限らない。ボットの偽装やプロキシサーバー経由によるアクセスなど、抜け道は存在する。Cloudflareの仕組みは契約ベースの制御にとどまるため、業界全体での採用や、AIクローリングおよびデータ利用を法的に規制・監督・罰則対象とする制度設計が進まなければ、こうした抜け道を完全に封じるのは難しい。

市場リスク

市場リスクも見逃せない。Cloudflareのアプローチは、AIエージェントが予算を持ち、質の高いデータに対して正当な対価を支払う未来を前提としている。しかし実際には、無料の選択肢が勝つ場面は多い。AIサービスを利用する一般のユーザーが質の高い回答に対価を払おうとしなければ、AI企業は結局、オープンなままのソースをスクレイピングし続ける可能性が高い。

発見される機会を失うリスク

可視性とリーチの問題もある。AIボットのアクセスを遮断すれば、そのサイトのコンテンツはAIシステムが生成する要約や回答に表示されなくなる可能性がある。コンテンツの権利を守ることで、発見される機会を失うリスクがあるのだ。

この点について、筆者がInquisitive Communications創業者のダニエル・ネスルと話したところ、彼は次のように述べた。

「ブランドやクリエイターは、ボットへの課金という行為が、実質的にブロックと同じ意味を持つことを理解すべきだ。コンテンツはGEO(生成AIエンジン最適化)など検索結果やAIの生成結果から消えるし、もっと重要なのはモデルの学習データからも外される。つまり、今この瞬間だけでなく、未来にわたってゲームから降りることになるだろう」。

AIと私たちが進む道の分岐点

Cloudflareが行ったのは、単なる設定の変更ではない。Cloudflareは、所有権、同意、「情報の経済学」について、より深い議論のきっかけを作るべく、引き金を引いた。無償アクセス・無償利用・無断収集を常とするAI企業のスタイルに対して、挑戦状を叩き付けたのだ。

これは、まさに大きな分岐点といえる。

一方の道は、AIシステム、AI企業がクリエイターとパートナーシップを結ぶ未来に続いている。たとえば、PerplexityがCoinbaseと提携して暗号資産のデータ提供を受けている事例がそれにあたる。もう一方の道は、無秩序なスクレイピングが続き、インターネット全体がさらに強力なAIを生み出すための無償の餌場と化す未来だ。

現在、私たちが足を踏み入れているのは、その中間に広がるグレーゾーンだ。そこでは、ある者はブロックを選び、ある者は課金を導入し、またある者は可視性を求めて自発的にデータ提供に応じている。

重要なのは、私たちがこうした選択を行うための手段と交渉力を手に入れたということだ。この変化は、クリエイター、AI開発者、そして企業にとって、ゲームのルールそのものを変えうる力を持っている。

forbes.com 原文

編集=上田裕資

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