サイエンス

2025.07.24 17:00

「世界最小の飛べない鳥」はなぜ北大西洋の絶海の孤島で生き残れたのか?

マメクロクイナ(Brian Gratwicke)

マメクロクイナ(Brian Gratwicke)

飛べない鳥たちは近年、人間の影響によって生存を脅かされてきた。

かつてモーリシャス島に生息した飛べない鳥ドードーが、人間の入植によって数十年のあいだに絶滅に追いやられた話は広く知られている。ドードーだけではない。北大西洋のオオウミガラス、ニュージーランドのモア、マダガスカル島のエレファントバード、インド洋のレユニオン島に生息していたレユニオンドードーはいずれも、人間がその生息地に到来してほどなく絶滅した。

2020年に学術誌『Science Advance』に発表された研究は、飛べない鳥が、いかに過酷な状況に置かれてきたかを明らかにしている。記録されている鳥類の絶滅例をすべて調査した結果、人間の活動によって絶滅したとみられる鳥類は全部で581種、そのうち166種が飛べない鳥だったと考えられるという。絶滅した鳥類の29%を、飛べない鳥が占める計算だ。飛べる鳥と飛べない鳥の比率は、およそ100対1であることを踏まえると、飛べない鳥たちを取り巻く状況の深刻さが理解できるだろう。

もちろん、飛べない鳥がすべて絶滅したわけではない。ダチョウ、エミュー、ペンギン、ニュージーランドクイナ、その他多くの飛べない鳥は、依然として健全な個体数を維持している。

現生の飛べない鳥で最も小さく、地理的分布が限られているにもかかわらず、比較的健全な個体数を維持しているのが、マメクロクイナだ。一体どのような鳥なのだろうか。

世界最小の飛べない鳥:マメクロクイナ

マメクロクイナ(学名:Laterallus rogersi)は、体重が0.1ポンド(約45g)に満たず(ゴルフボールと同じくらい)、体長は約5~6インチ(約13~15cm)と、飛べない鳥としては世界最小だ。

この種は、南大西洋に浮かぶ地球上で最も孤立した島々の一つ、トリスタンダクーニャ諸島に連なる火山島、イナクセシブル島にのみ生息する。

イナクセシブル島(Warrenmck)
イナクセシブル島(Warrenmck)

イナクセシブル島の「inaccessible」とは「近寄りがたい」という意味であり、この島はまさにその名にふさわしい。危険の多い海と、急峻な岩だらけの断崖に囲まれているため、これまでほとんど人間の手が加わっていない。こうした孤立した環境のおかげで、マメクロクイナを含む島の野生生物は、捕食者や人間の干渉をほとんど受けずに進化してこられた。

島の面積はわずか約5.5平方マイル(約14平方km)だが、険しい地形、草原、植生の組み合わせにより、驚くほど多様な生物が生息している。

マメクロクイナは、密生した草むらやシダのあいだに隠れて過ごすことが多い。餌となる昆虫、種子、小型の無脊椎動物を求めて、茂みの中をうろついている。飛ぶことはできないが、俊敏で走るのが速いため、海鳥などの捕食者から逃れることができる。

彼らの祖先は、何らかの理由で島に到達した、空を飛べるクイナの仲間だったと考えられている。おそらく嵐に遭って、飛んでいたコースを外れたのだろう。島に到達してからは、捕食者がおらず、飛ぶ必要がないため、徐々に飛翔能力を失っていったとみられる。その体は年月とともに小型化し、現在見られるようなコンパクトで飛べない形態へと進化した。

特定の限られた生息域にのみ分布しているにもかかわらず、マメクロクイナの個体数は現在安定しており、IUCN(国際自然保護連合)による絶滅危惧種レッドリストでは「危急種」に分類されている。

これは主に、この島が無人島であること、厳格な保護措置がとられていること、またネズミやネコなど、他の島で鳥類の個体群を絶滅させた外来種がいないことに起因している。それでも、研究者は危機感を抱いている。5000~1万羽と推定される総個体数がたった一つの島に集まっているため、気候変動や外来の捕食者が原因となって、突然絶滅する可能性があるからだ。

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翻訳=高橋朋子/ガリレオ

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