北米

2025.07.23 11:00

米国初の暗号資産法「GENIUS法」が成立、ステーブルコインをドルに強制連動

7月18日、GENIUS法への法案署名を行うトランプ米大統領。(Photo by Win McNamee/Getty Images)

GENIUS法はどのように米ドルの地位を強化する?

GENIUS法の重要な狙いのひとつは、基軸通貨としての米ドルの地位をより強固にすることにある。最大のステーブルコイン発行者であるテザーは、2024年に1200億ドル(約17.6兆円)を超える米国債を保有しており、これはステーブルコインが米国債の重要な買い手となり、ドルの国際的な流通を後押しする力を持つことを示している。

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またこの新法により、ステーブルコインは米ドルまたは米国債によって完全に裏付けされることが義務づけられているため、米国債への恒常的な需要が創出される。暗号資産の成長をドルの強さに直接結びつけ、ドルの支配力を将来にわたり維持しようとする戦略の一環だ。

暗号資産の規制の空白を埋める

GENIUS法は、ステーブルコイン市場の規制の欠如に関して、当局や政策立案者が長年抱えてきた懸念に対処するものでもある。この分野の消費者の保護は最小限にとどまっていた上に、マネーロンダリング(資金洗浄)対策も不徹底で、ハイテク大手によるデジタル資産の発行・管理にも制限はほとんどなかった。

この法律は、国内外すべての発行者に厳格なコンプライアンス義務を課すもので、当局が適法な命令に基づいて資産を凍結・差し押さえするための体制が整備される。ステーブルコインの発行者にマネーロンダリング対策および制裁遵守プログラムを設けることを義務づけ、年次の監査も必須とされる。

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さらに米国財務省に対しては、外国のステーブルコイン発行者が米国の法執行機関と協力しない場合に、非適格と認定する権限が与えられる。そのようなトークンの米国内での取引を仲介する中央集権型プラットフォームを排除できるようになる。

GENIUS法の本質とその限界

この法律は短期間で議会を通過したものの、それまでの数年間で超党派の交渉が行われていた。GENIUS法の最終案には、民主党による6つの修正が盛り込まれ、州の規制当局や複数の連邦機関の意見が反映されている。ここには、テック企業による金融市場への過度な参入を防ぐための措置として、利回り付きステーブルコインの提供の禁止、顧客資金の混合の禁止、関連会社との取引制限などが盛り込まれた。また、ステーブルコイン発行者が連邦準備制度のマスター口座を取得することを禁じ、テック企業や暗号資産企業が「銀行のような存在」になることを防いでいる。

ハガティ上院議員は、この法律の目的はテック企業を銀行にすることではなく、新たな種類の支払いプロダクトに関して常識的な安全策を築くことだと述べた。

また、この新法は、倫理面の懸念にも対応し、選挙で選ばれた公職者や政府の高官がステーブルコイン企業と関わる際に、既存の法律が適用されることを明確にし、利益相反につながる抜け道を塞いでいる。

透明性と安定性を通じた危機の予防

GENIUS法の主要な目標のひとつは、透明性、監督、消費者保護に焦点を当てることで、将来的な市場の破綻を防ぐことにある。この法律は、米ドルまたは流動性の高い資産による全額の裏付けや、毎月の準備資産開示、大手発行者に対する年次監査、リスクの高い資産保有への制限といった措置を通じて、リスクの軽減とイノベーションの両立を図る。また、破綻時にはステーブルコイン保有者への補償を優先することで、リスクの抑制を目指す枠組みも導入される。

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編集=上田裕資

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