AI

2025.08.06 08:15

Sakana AIとパズル系YouTuberの協業が示すAI開発のかたち

左からCracking The Crypticのマーク・グッドリフ、Sakana AI共同創業者兼CTO(最高技術責任者)のライオン・ジョーンズ、Cracking The Crypticのサイモン・アントニー

━━ChatGPTとGoogle Geminiが挙げたライオン・ジョーンズさんのプロフィールの一例に、「(ライオン・ジョーンズは)AI分野で何が可能か、限界を押し広げようとしている」というものがありました。まさに今回のプロジェクトと通じるものがあるかと。今回の「Cracking The Cryptic」とのコラボレーションが生まれたきっかけについて教えていただけませんか。

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ライオン・ジョーンズ(以下、ライオン):きっかけはAI研究者アンドレイ・カルパシーの言葉です。彼は、「インターネット上のテキストで言語モデルを訓練すると、ある程度の推論ができるようになるのは驚くべきことだ。しかし問題は、それらの推論において実際の思考過程が段階的に説明できていない点である」というようなことを話していたのです。

文章を書くとき、人は考えていることをそのまま書くのではなく、思考の結果を書くでしょう? 彼の言葉は、もし誰かが何か考えているとき、その人の脳内で起きている推論の軌跡に関する多くのデータがあれば、そのデータはAIに推論を教えるうえで強力なのではないか、ということです。私も同じことを考えていたので、強く共鳴しました。アンドレイのコメントを見て、「そんなデータはどこにあるのか? どうすれば入手できるか? きっと、どこかにあるはずだ」と考えたのです。

最初に浮かんだアイデアの一つが、「意識の流れ」と呼ばれる哲学的な概念についてです(編集部註:個人の主観的な意識体験が、切れ目のない、絶え間なく流動的なものであるという考え方。米心理学者のウィリアム・ジェームズによって広まった)。それをとらえる試みとして、考えていることをそのまま書くという技法があります。哲学は多くの推論を含んでいるので、うまくいくかもしれないと思いました。

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その後、仕事から離れてYouTubeで「Cracking The Cryptic」をのんびり観ていたときのことでした。サイモンが、パズルを解きながら考えていることを順々に説明しているのを見ているうちに、このデータなら完璧だと気づいたのです。

幸運だったのが、その頃、Jeffrey Seely(ジェフリー・シーリー)がSakana AIに加わったことです。働くにあたってプロジェクト提案書が必要だったのですが、彼が着任した頃には、他の誰かが似た内容を手がけていました。そこで、ジェフリーに「少し突飛なアイデアがあってね。君の感想を聞いてみたい」と伝えたところ、彼も「Cracking The Cryptic」のファンだったとわかり、アイデアを気に入ってくれました。

マークとサイモンが動画の中で自分たちのしていることを逐一説明する様子を見て、僕らはデータの完璧さに興奮を隠せませんでしたよ。彼らは毎回、一から説明するんです。絶対に「前回の動画からの流れで、私たちがあれこれできることをご存知ですよね」とは言いません。「数独」のルールや制約、他の動画から得た学びについて説明します。パズルを解くのに必要なすべての推論が一本の動画に含まれているのです。

すごく緊張しながら連絡を取ったのを覚えています。色よい返事を期待していませんでした。だって、彼らにはいろいろなメールが届くでしょうし、僕のメールだって「あなたがたをAIでクローンしたいんです」みたいな変なのがもう一つ加わっただけですから(笑)。返信はないだろうな、と半ばダメ元でした。

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文 = 井関庸介 写真 = 能仁広之

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